フィリピンの電力のエネルギー別発電割合はご覧のとおり、石炭と天然ガスが主である。
天然ガスはガス田もあるが枯渇しかけており、電力の約75%が輸入エネルギーに頼っている。
出典:Electricity in Philippines in 2025
また発電設備は老朽化しており、5月中旬には複数の発電所の強制停止が重なって、ルソン地方およびビサヤ地方で約200万人が影響を受ける大規模な輪番停電(レッドアラート発令)が発生していました。
現在は輪番停電は免れていますが、需給は逼迫しています。
フィリピン政府はマラパヤガス田の枯渇や、既存の石炭火力発電所の老朽化に対応するため、「2030年までに再エネ比率35%、2040年までに50%」という極めて野心的な目標を掲げ、大規模プロジェクトを急速に加速させています。
2026年に入り大規模供給が相次ぎ始動し、これまでの計画段階から、ようやく「実際のグリッド(送電網)への接続・稼働」のフェーズに移行し始めています。
エネルギー省(DOE)は電力危機に対応するため手続きを迅速化(ファストトラック)し、2026年4月だけで22の再エネ・蓄電池プロジェクト(計1,471MW)を新たに稼働させました。
これにはイサベラ州のコルドン太陽光(52.8MW)やパンパンガ州のアラヤット太陽光(30MW)などが含まれます。
また世界最大級となる予定の超巨大太陽光プロジェクト「テラ・ソーラー(蓄電池付き)」なども、すでにグリッドへの試験的な電力注入を開始しています。
現在進行中のプロジェクト
1. Terra Solarプロジェクト
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規模:3,500MW(太陽光+蓄電池統合)
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場所:ルソン島中心部
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特徴:世界最大級の太陽光+蓄電施設。中国Energy ChinaがEPC契約を獲得。
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完成予定:2026〜2027年
2. MSpectrum Taiyo Inc.(太陽光PPA事業)
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参入企業:Meralco子会社MSpectrum、東京センチュリー、JFEエンジニアリング
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設立:2026年7月予定
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第1号案件:フィリピンヤクルト第2工場(ミンダナオ島)向け太陽光PPAサービス
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容量:1,461kW
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年間発電量:約203万kWh
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3. San Manuel太陽光発電プロジェクト
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場所:ルソン島パンガシナン州
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規模:60MW(10万8千枚のパネル)
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発電量:年間94GWh(約5万5千世帯分)
4. 水力・浮体式太陽光プロジェクト
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マガット貯水池浮体式太陽光:68MW規模、水面反射を利用した効率的発電。
しかしプロジェクト自体は順調に増えていますが、電力危機を今すぐ解決できない構造的なボトルネックが存在します。
送電網(グリッド)の容量不足
- 地方や海上でいくら大量の太陽光・風力電力を生み出しても、それを消費地(マニラなどの都市部)へ送る送電インフラの整備が完全に遅れています。
- これが、再エネが増えているにもかかわらず「今週もビサヤ地方でイエローアラート(停電注意報)が出る」といった需給逼迫が続く最大の原因です。
送電網の民間開放へ(最新の動き)
- この事態を重く見たエネルギー規制委員会(ERC)は、直近(6月)になって、これまで実質的に独占状態だった送電インフラの建設網を他の事業者にも開放・民間委託する方針を固め、インフラ整備のスピードアップを狙っています。
しかし送電網の不足を補いそうなのが家庭の自家消費型の太陽光発電(ルーフトップ太陽光)の増加です。
最近爆発的に増えているのが家庭の自家消費型の太陽光発電と蓄電池です。
エネルギー調査機関「Ember」や地元の業界データ(2026年最新)によると、フィリピンのルーフトップ太陽光の導入容量は直近の1年間だけで約600MW追加され、ほぼ倍増しました。
これは大型のメガソーラー数個分に匹敵する規模です。
これには4つの原因があります。
1. 売電手続きのハードルの高さ
- フィリピンには、余った電気を配電会社(Meralcoなど)に買い取ってもらう「ネットメータリング」制度があります。
- しかし、申請手続きに時間がかかることや、地域の電気協同組合の対応遅れなどが原因で、接続許可を得るのが非常に面倒という問題が長く続いています。
- そのため、多くの家庭が手続きをバイパスし、「申請不要で、設置してすぐに使える自家消費型」を選んでいます。
2. 「元を取る期間(回収期間)」が3〜4年に激減![]()
- フィリピンの電気料金は東南アジア最高峰で上がり続け、我が家では今月は1kWh当たり15.11ペソ・約40円に達しています。
- 一方で、中国からの太陽光パネルの輸入価格が大幅に値下がりしたため、家庭用太陽光(3kW〜5kW前後)の投資回収期間は、以前の8〜10年から「3〜4年」へと大幅に短縮されました。
- 2025年〜2026年にかけての太陽光パネルの輸入量は前年の5倍以上
に達しており、その大半が一般住宅や店舗の屋根に流れています。
3. 「蓄電池付き(ハイブリッド型)」による停電対策
- 前述した5月の大規模輪番停電や、台風による数日間の停電を経験したことで、フィリピンの消費者は単に「電気代を安くする」だけでなく、「停電時の命綱」として太陽光を導入しています。
- 昼間に発電した電気を貯め、夜間の停電時にもエアコンや冷蔵庫、スマホの充電ができる「蓄電池付きの小規模システム」の需要が非常に高くなっています。
4. 地方や離島の「自給自足」モデル
- 送電網(グリッド)が届いていない山岳地帯や、送電線が脆弱な離島コミュニティでは、政府やNGOの支援、あるいは自己資金によって、数枚のパネルとバッテリーを組み合わせた「オフグリッド(完全独立型)システム」が生活インフラとして普及しています。
中国経済崩壊論が好きな人は「中国はソーラーパネルが過剰生産で困っている」と言っているが、EVだけでなくソーラーパネルやコントローラー/ハイブリッドインバーターや蓄電池でも追い風となっているようです。
家庭の太陽光発電や蓄電池が増えれば当然浮かんでくるのがそれらをインターネットで接続し制御して仮想発電所としようという構想。
VPPについてはこちらをお読み下さい。
発電も送電も熟成されており、変わる必要を感じない日本。
しかし電話回線が整備されていない新興国はランドラインを飛び越えてスマホに進み、銀行が発達していなかった中国は一気にキャッシュレスに進みました。
発電設備が老朽化しており、送電網が容量不足で電気代が高く停電が多いフィリピン。
日本のような先進国が歩んできた「巨大な集中型電源と完璧な送配電網」というステップを完全に飛び越え、「個々の分散型電源(太陽光+蓄電池)とデジタル技術(IoT/VPP)」によって構築される新しいエネルギー社会へ、一気にワープ(追い越し)してしまう可能性もありそうです。

