記事の要約:
気候変動対策にテクノロジーを活用する「気候テック」という分野が世界で注目されています。各国政府は脱炭素化を目指し、気候テックに巨額の支援を行っています。一方、日本は気候テックの市場規模や競争力が低く、スタートアップの育成や需要創出に課題があります。気候変動は人類の存続に関わる問題であり、ビジネスチャンスでもあります。日本は気候テックの波に乗り遅れないように、どうすべきでしょうか。
気候テックとは、再生可能エネルギー、電気自動車、二酸化炭素回収など、温室効果ガスの排出削減や吸収に貢献する技術やサービスを指します。この分野は、世界的な脱炭素化の流れの中で急速に成長しており、多くの国が政策や投資で支援しています。しかし、日本はこの分野で遅れをとっており、スタートアップの育成や市場づくりに課題があります。気候変動は人類の存続に関わる問題であり、ビジネスチャンスでもあります。日本は気候テックの波に乗り遅れないように、どうすべきでしょうか。
世界の気候テック市場は急拡大 日本は存在感なし
世界では、気候変動対策に取り組む企業や技術が注目されています。PwCの調査レポート「2021年版気候テックの現状 脱炭素ブレイクスルーの拡大に向けて」によると、2020年下半期と2021年上半期の気候テック投資額(総額)は、総額で875億米ドル(約9兆6千億円)に上り、特に2021年上半期は半期単独で600億米ドル(約6兆6千億円)を超え、過去最高額を記録しました¹²。
このような市場拡大の背景には、各国政府の積極的な支援があります。米国では昨年、「インフレ抑制法」が成立しました。この法律では、エネルギー安全保障と気候変動対策に、補助金や税額控除で10年間に約52兆円を支援することが決まりました[^10^]。再エネや二酸化炭素を回収して地下に埋める「CCS」などの電力に4割、電気自動車(EV)や蓄電池などの製造業に1割などターゲットは幅広く、「米国産」の製品や企業も優遇されます。EV関連の税額控除では、工場の設備投資や生産コストのほか、EV購入者が受けられるものまで一気通貫の手厚い内容です。
欧州連合(EU)も「グリーンディール産業計画」を打ち出しました。この計画では、税額控除などにEU予算から約38兆円をあてることが決まりました[^10^]。排出量取引やエンジン車規制などルール作りを主導して、新しい市場を作っています。ドイツや韓国でも脱炭素市場への投資促進策の検討が進んでいます。
これらの国々は、気候変動対策を国家戦略として位置づけており、「グリーン軍拡競争」と呼ばれる状況になっています。気候テックは、環境問題だけでなく、経済成長や雇用創出にも貢献する分野として期待されています。
一方、日本はこの分野で遅れをとっています。米国の調査会社が今年報告した気候テック企業の上位100社には、米国がトップの54社、アジアでは中国が1社入ったが、日本はゼロでした。日本の気候テック市場規模も、SPEEDA EDGEの試算によると、2020年時点で168億ドル(約1兆8千億円)と世界的に見ても小さく、存在感が乏しいと言わざるを得ません。
日本政府は気候テック支援に力を入れる スタートアップ育成や市場づくりに課題
日本政府は、気候テックに対する支援を強化する方針です。5月に「GX(グリーン・トランスフォーメーション)推進法」が成立しました。この法律では、社会の脱炭素化に今後10年間で官民で150兆円の投資が必要とし、政府も20兆円を支出することが決まりました。総額2兆3千億円のグリーンイノベーション基金も21年度から続きます。
また、政府は昨年末に「スタートアップ育成5か年計画」を掲げ、過去最大の1兆円規模の起業支援を表明しました。今年6月に決めた「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、ここに気候テックを含むことを明示しました。環境省では今年3月、気候テックに投資する際に参考にしてもらう枠組みをつくる検討会も立ち上げました。担当者は「気候テックは環境問題への貢献度が高いビジネスであるほど、そのまま成長の優位性になる。環境問題の専門的な見地からの情報を投資することを目的としている」と話しました。政府の24年度のGX関連の概算要求でも、スタートアップ育成支援に5年で約2千億円を計上しています。
これらの動きは、気候テックのスタートアップにとって歓迎すべきことです。私は、気候テックの起業家や投資家とのインタビューを通して、彼らの情熱や苦労を知る機会がありました。彼らは、環境問題を解決するために、革新的な技術やサービスを開発しようとしています。しかし、資金調達や人材確保、規制や市場の不透明さなど、多くの障壁に直面しています。政府の支援は、彼らにとって大きな助けとなるでしょう。
しかし、政府の支援だけでは不十分です。気候テックは、ITと比べて製品開発に初期投資が多く必要な上、事業化までの時間も長いとされます。00年代後半にも再生可能エネルギーを手がける新興企業が「クリーンテック」ともてはやされましたが、ブームで終わりました。気候テックのスタートアップは、長期的な視点で成長を見込める投資家やパートナーを見つける必要があります。
また、日本では消費者の気候変動に関連した購買行動が米国やEUに比べると低く、需要が生まれにくい土壌もあります。投資家がこうした点にリスクを感じ、投資が続かないおそれもあります。政府は、製品に環境性能の規制基準を設けるなどし、需要を生み出すといった市場づくりを後押しする姿勢が弱いです。
気候テックは環境問題だけでなくビジネスチャンスでもある 日本はどう挑むべきか
気候テックは、環境問題だけでなくビジネスチャンスでもあることを忘れてはなりません。気候変動は人類存続の問題でもありますが、それだけではなく、経済活動や社会生活にも大きな影響を及ぼします。温暖化による自然災害や食料不足、エネルギー危機などは、人々の生活や産業に深刻な打撃を与えます。これらの問題に対応するためには、新しい技術やサービスが必要です。気候テックは、これらのニーズに応えることができます。
気候テックは、既存の産業や市場を変革する可能性も持っています。再生可能エネルギーは、化石燃料に依存する電力産業を変えようとしています。電気自動車は、内燃機関車に代わる次世代の移動手段として注目されています。二酸化炭素回収は、温室効果ガスの排出源から吸収源に変わることができます。これらの技術は、環境にやさしいだけでなく、コストや効率、性能などでも優れていることが多くあります。気候テックは、競争力のあるビジネスとして成立することができます。
しかし、気候テックには環境に悪影響なものもあるかもしれません。ニュースに関するコメントの中には、こんな意見がありました。
> 再生可能エネルギーを見て、日本各地で自然破壊が進んでいるでしょ? 森を切り開いて太陽光パネル置いて、果たしてそれのどこが良いのか? 甚だ疑問。 水や土壌、廃棄物から電気を取り出す超小集電とかの技術は、 少し期待してるけど、何をするにしても環境に配慮しなくちゃ意味がない。
このコメントは、気候テックが環境問題を解決するための手段であると同時に、新たな環境問題を引き起こす可能性もあるという点を指摘しています。確かに、再生可能エネルギーは化石燃料に比べて温室効果ガスの排出量が少ないですが、その設置や運用には自然や生態系に影響を与える可能性があります。太陽光パネルや風力発電は、土地や景観を変えたり、鳥類や昆虫などの生物に被害を与えたりすることがあります。バイオマス発電は、森林伐採や土壌流出などの問題を引き起こすことがあります。気候テックは、一面的に環境に良いというわけではなく、その利用方法や規模によっては、逆効果になることもあるのです。
気候テックを推進する際には、その環境への影響を十分に考慮する必要があります。気候テックは、気候変動対策の一つの手段であって目的ではありません。目的は、人間と自然が共生できる持続可能な社会を実現することです。そのためには、気候テックだけでなく、人々のライフスタイルや価値観も変えていく必要があります。
まとめ:
気候テックという分野は世界で注目されており、多くの国が政策や投資で支援しています。日本も気候テック支援に力を入れていますが、市場規模や競争力が低く、スタートアップ育成や需要創出に課題があります。気候テックは環境問題だけでなくビジネスチャンスでもありますが、その利用方法や規模によっては新たな環境問題を引き起こす可能性もあります。日本は気候テックの波に乗り遅れないように、技術技術だけでなく、人々のライフスタイルや価値観も変えていく必要があります。