池袋で「街と文化」を巡る議論が盛んになっています。発端は駅東口にある「西武池袋本店」に、そごう・西武の売却が決まったことによる家電量販店「ヨドバシカメラ」の出店予定が明らかになったことです。
出店計画が明らかになると、池袋に区庁舎がある豊島区長が早速反対の狼煙をあげ、それに続き、西武百貨店の土地のオーナーである「西武ホールディングス」のトップまで好ましくないとの声明を発表しました。企業間の株式売却に伴った家電量販店の出店に対して、直接の関係者でない人々が反対するのは異例といっていいでしょう。

この背景には、1980年代に始まった「セゾングループ」による西武百貨店の興隆があります。
池袋は戦後の闇市が盛んな街から、一大ターミナルへと発展し、西武鉄道の本社があったことから西武鉄道の関連企業であった「西武百貨店」や「サンシャイン60ビル」を中心に繁華街としても大きく発展しました。特に「西武百貨店」は日本で最も早く世界的ブランドを導入し、新しい形の百貨店の発展に寄与し(ブランドショップを百貨店の顔である1階から無くして家電量販フロアを低層階にいれる計画に関係者は猛反対しています。)、「西武美術館」など文化施設も取り入れるなどして脱物販、文化的な方向性を打ち出し、その後の池袋の発展に少なからぬ影響を与えました。

そうした流れとは関係なく、純粋に経済的視点から今回の計画はなされたのでしょう。
経営がうまくいかないから資産を売却し経営権を譲渡する。資本主義ではよく行われる手法であり、それ自体を批判することは無理筋です。
しかしながら、池袋という街の発展に貢献してきた百貨店の在り方に対して全く配慮をしないことには問題が残ります。ましてや、「西武池袋本店」は今でも日本で第3位の売り上げがある優良店舗です。家電量販店の出店云々の前に、ターミナルの顔としてどのようなものが相応しいか、しかも池袋の今までの歴史を踏まえた文化的な街づくりにどのように貢献すべきか、関係者を交えた熟慮が求められるはずです。

「西武百貨店」の関係者には事前説明は全く行われなかったとの報道もあります。売る方より買う方に決める権利があり、事前説明などの必要はないと考えているとすれば、視野が狭く性急な運営に陥りがちで、早晩経営には失敗するでしょう。
買い手は米投資ファンドと家電量販店ヨドバシホールディングスの連合です。投資ファンドは短期的な利益にしか興味がなく、文化的な街づくりなど言っていたら何年かかるかわかりませんし、そもそも利益の計算が難しくなりますから、彼らの領分ではないのでしょう。

経済的視点のみで経営するなど本来あってはならないことです。経済志向の強い人はそんなの関係ないと本気で思っている伏しがあり、危険な匂いを感じます。「西武百貨店」の低層階を家電で埋め尽くすとは、家電好きにはたまらないでしょうが、それまでの方向性に対して配慮が足りないと感じる人は少なくないでしょう。
一大ターミナルにある百貨店は、「街と文化」に広く深く貢献しているのです。