最近よく聞こえてくる「リスキリング」ですが、その定義は「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」です。
特にDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成・拡大を主な目的として語られることが多いようです。
国も「リスキリング」は重点課題としており、岸田内閣の最重要政策の一つである「デジタル田園都市国家構想」において、「デジタル人材の育成・確保」を主要な施策と位置づけ、2026年度末までに230万人の育成を行うことを掲げています。そして、「リスキリング」支援に5年で1兆円を投じるとされています。
こうした動きは歓迎すべきですが、「リスキリング」を実効性あるものにするには、言うまでもありませんが、各企業や組織における実践面における育成が効果的に行われない限り、「絵に書いた餅」で終ってしまいます。

仕事における能力の向上は実務を通じて行われることは誰でも知っています。経験が必要ですからある程度の時間がかかります。単純な作業ならともかく、少し複雑なプロセスが必要な場合は、経験のなかから基本となることや知恵などを自分なりに修得していくことで、徐々に熟達していくというものでしょう。

どんな職種であれ「リスキリング」を十分なレベルに到達させるには、一定の新たな知識とそれらを基にした経験から、その後に役立つ教訓や知恵を学び取らなければならないでしょう。したがって、最も大切なことは適切な仕事経験なのです。そうした経験を創出することなのです。
DX人材の開発・強化に踏み出した企業の状況は、残念ながら期初の取り組みである知識やスキルの提供にとどまっていて、十分な仕事経験の提供まで踏み込んだ企業はまだ少ないように思えます。

人が余っている業種・業態で、DX研修を受講すれば、情報・通信などの人が足りない業種に「転職できる」という「転職の煽り文句」も広がっているように見えます。
勤務している企業の業績が芳しくなく、転職を考えている人に、「それっぽい研修」を売り込み、もうこれで安心あなたは十分に「リスキリング」人材です、と思わせているとすればずいぶんと罪づくりな行為です。
そんなことで「リスキリング」できるはずがないことは、少し考えればわかることなのですが、「リスキリング」なる言葉だけが独り歩きして、魔法の呪文のようになってしまっていると憂慮しているのは私だけでしょうか。
    
当たり前ですが、DX人材として活躍するためには、知識を得て、経験を積み、そこから教訓や知恵を得ることが最低限必要になります。そして何より、実務経験を積むための機会を提供し、組織として一定の方向性をもって進めていくことが極めて重要です。時間もかかります。単純に「それっぽい研修」を数時間受講するだけでDX人材になれるなら、誰も苦労はしないのです。