広島で行われたG7サミットにウクライナのゼレンスキー大統領が対面参加しました。
戦争が行われている最中に、世界の首脳が集まるサミットに参加しようとする意志と行動力に、率直にいって驚きました。これまでも世界の様々な国へ訪問し、支援を訴えてきた経緯がありますから、さほど驚かない方も多いかもしれません。そういった感想もないわけではないですが、私は彼の巧みさに驚きます。

広島サミットは何年も前から予定され、それを利用するための準備の時間は十分にありました。ロシアとの戦争に関して、世界の首脳が集まるサミットは恰好の交渉舞台であり、その機会をどのように活用するかについては、常に念頭にあったでしょう。
しかし、ゼレンスキー氏は、それをおくびにも出さず、直前になって関係国へ打診し、主催国である日本に対しては到着前日に通告するという方法をとりました。
これにより、今しかないという切迫感、期待感を醸し出すことに成功したのではないでしょうか。
こうした方法になったのはあくまで結果論であるという考えも成り立ちますが、私はそうではなく、いくつもストーリーを頭のなかに置いておき、状況を見て選択と実践は速やかに行うという巧みさによるものだと思います。もちろん、そうした巧みさは、日頃の深い思考、強い意志と行動力がなければ実現はできないのは言うまでもありません。

さらに驚いたのは、帰国前の会見で、広島とウクライナを比較してはいけないが、という前提で、広島のようにウクライナも必ず復興を果たすと、戦争の行く末もまだよくわからない現段階において、将来への希望を、世界の他の土地よりも復興に関してはるかにメッセージ性のある広島を土台にして語ったということです。
リーダーによるこうした未来への言葉は、人々に希望を抱かせ、あらためて団結心と勇気を与えてくれます。ゼレンスキー氏はコメディアンで人々の心をつかむことについては、もともと長けていたにせよ、最悪の国難である戦争の最中に、冷静かつ巧妙な行動を示せるのは深い思考力と強固な意志力を有しているのに他なりません。

企業や組織においても、困難な状況に陥った際には、リーダーの在り方が大きな影響を与えます。
先行き不透明な状況の際には、誰もが不安になり、見通しの立たない中で、何をどうしていってよいのか、五里霧中の状態に置かれることはよくあるでしょう。
そうした時に、希望の言葉をリーダーが発することは重要です。しかし、もっと重要なことはリーダー自らの率先垂範であり、今回のゼレンスキー氏のような強力なメッセージ性のある行動がそれを伝えてくれるのです。

こうしたことは、事前の巧みな計画でできるかといえばそうでもなく、強い意志力の上に確固としたビジョンをもって、状況に応じて最速で判断することを日頃から心がけていないと難しいでしょう。
言われてみれば当たり前ですが、ゼレンスキー氏の今回の行動をみてあらためて思った次第です。