すでにご存じの方は多いと思いますが、岸田内閣の「新しい資本主義実現会議」では、新自由主義で課題となった「格差」の是正や適切な「分配」について検討しています。
草案には、「分厚い中間層の形成は、民主主義の健全な発展にとって重要であり、新たな資本主義における経済社会の主要な担い手である中間層が潤うことで、格差の拡大と固定化による社会の分断を回避し、サステナブルな経済社会を実現できる。このため、賃金引上げや中小企業への取引の適正化等のフロー、教育・資産形成等のストック両面から中間層への分配を進めるとともに、今後の人手不足時代に対応したデジタル投資等への支援を通じて持続可能な分配を下支えする」として安定した中間層の形成を謳っています。
そのための第一歩として、大企業中心ではありますが賃金の引き上げが実現する見込みです。
経営者は過去10年間ほどは利益を内部留保と役員報酬の増額にしか向けてきませんでしたが、やっと重い腰を上げて賃上げに踏み切りそうです。
もう一つの課題である中小企業への「取引の適正化」についても動きが出てきています。
就業者の7割くらいは中小企業が担っていますから、大企業の賃上げ以上に大切だと個人的には思うのが中小企業の「取引の適正化」です。「取引の適正化」をはじめとする健全なフローの実現により、中小企業は体力を強化し、賃金の引上げに必要な原資などの確保が可能になるからです。
年末にこっそりと?報道されましたが、公正取引委員会が下請け企業などとの間で、原材料費や人件費といったコスト上昇分を取引価格に反映するための協議をしなかったとして佐川急便や全国農業協同組合連合会(JA全農)、デンソーなど13社・団体の名称を公表しました。
公正取引委員会は岸田内閣の「新しい資本主義実現会議」に先んじて2021年9月から全国11万社を対象に取引価格の協議について調査を行っています。
これは独占禁止法の運用方針として(1)受注企業と発注企業の価格交渉の場で価格転嫁の必要性について協議しない、(2)価格転嫁の要請があったのに拒否し、その理由を回答しない-のいずれかでの場合で取引価格を据え置けば「優越的地位」の濫用にあたる可能性があるとすることが根拠になっています。公取委はいわば「下請けいじめ」を許さない姿勢を鮮明にしたのです。
強い者、大きい者が弱い者、小さい者を守らねばならないことを我々は幼少期に学んでいるはずですが、なぜかビジネスでは利益至上主義に陥り弱い者いじめが横行します。それがまるでビジネスとしての正義であり、人倫にもとる行為が大手を振ってしまうのです。
公表された13社・団体は先の2社・団体の他に、三協立山、大和物流、デンソー、東急コミュニティー、豊田自動織機、トランコム、ドンキ・ホーテ、日本アクセス、丸和運輸機関、三菱食品、三菱電機ロジスティックス
です。すべてそれぞれの業界を代表する有名な会社・団体です。
換言すれば、日本を代表するような会社・団体が倫理的に問題のある行為により自分たちの利益確保を優先しているということです。
公取委のこうした対応は目立ちませんが非常に重要かつ社会的にインパクトあることです。
近江商人が「三方よし」として、「買い手よし、売り手よし、世間よし」の精神で商売をしたことは広く知られていますが、「三方よし」に反する行為を公取委に指摘されているようでは「分厚い中間層」の形成は遠いかもしれません。「新しい資本主義実現会議」で言われる以前の問題として、ビジネス上の倫理について見直す必要性は高いと言えます。