令和4年版労働経済白書によると、日本は労働移動がOECD平均の半分程度です。1990年代からずっとこの状況が続いています。ここでいう労働移動とは、失業プールへの流入出率(失業プールへの流入者と流出者の合計が生産年齢人口に占める割合)で表わされます。職を失った人が再び職を得る割合といってもいいでしょう。
OECD平均といっても、各国別にみればずいぶん状況は違います。
アメリカ、カナダ、スウェーデン、デンマーク等の北米地域や北欧諸国では失業プールの流入出率が高いですが、イタリア、ドイツ、フランスといった欧州大陸諸国は日本とほぼ同じです。つまり、OECD平均は北米、北欧諸国が押し上げており、欧州大陸諸国は日本と状況が似ています。
最近の日本では、外部労働市場における労働力の需給調整機能をもっと活発にすべきで、生産性の高い産業や先進的産業への労働移動を円滑にするべきだと論調がよく聞かれます。
そのためには労働者のスキルアップも必要で、リスキリングなる概念が注目され、岸田政権の「新しい資本主義実現会議」でも盛んに議論されていることはご存じの方も多いでしょう。
もちろんこうした考え方は間違ってはいません。必要な労働力を必要なところへ供給することが社会の進歩と安定には必須な条件と考えられるからです。
しかし、勘違いしてはいけないことがあります。
上記の失業プールへの流入出率が、必要な労働力を必要に応じて供給している状態、労働力の需給調整機能を正確に表わしているわけではないということです。
労働力の需給調整といえば、必要としている労働力を調整確保することであり、必要のない労働力は必要とするところへ移動させることを含みます。
留意しなければならないことは、この需給調整が企業の枠を超えて行われているかどうかで、失業プールへの流入出率は変わってくるはずだということです。
日本の企業は余剰人員が生じたからといって直ちに人員整理をしません。欧州大陸諸国も同様です。
そして、日本は特にそうですが、需給調整をできるだけ社内や企業グループ内で行おうとします。そうすれば、当然ですが失業プールへの流入出率には現れてきません。
時には大胆に業態変更を行い、全く別の会社として生まれ変わったりするのが日本です。
私は日本の強みはそうした企業、すなわち共同体としての改革力、協働力にあると思います。
時代の変化に伴い、人を入れ替えるのではなく、人の能力を変えていく。そしてそれを各自に任せるのではなく、企業や組織をあげて行う。そうした長期的な関係の継続を重視しているのが日本企業の特徴です。
転職が活発なほうが優れた社会などと単純に考えてはいけないのです。