人材育成には時間がかかる。

この命題に反対する人はあまりいないでしょう。

言うまでもなく、どんな能力も基礎の習得から始まり、修練を経て質的量的向上が実現されますから、年単位の時間がかかるのは当然でしょう。

したがって、長期的な視点に基づいた人材育成は重要な戦略の一つであることは間違いありません。

 

Job型雇用への関心が高まっている昨今、あらためて確認しておきたいのは長期的人材育成です。

企業は成果を求められますから、すぐに成果を出せる能力ある人材(成果人材)を中心に採用するのは一面では合理的です。

経団連がJob型雇用を推進するのは成果人材に魅力を感じているからでしょうが、企業を永続的存在とするならば、成果人材中心の採用に諸手を上げて賛成とはいかないでしょう。

 

企業の実態を見ると、長期的人材育成を重視している当たり前の実態がわかります。

実証データによる日英企業の比較研究によれば(佐藤2020)、日英とも新卒採用に注力している割合は大企業はほぼ同じ5割ほどで、中小企業は日(30.2%) 英(36.5%)で英のほうが多い実態があります。

大企業では特にそうですが、中途採用・短期的育成に注力しているとは言い難い現状です。

欧米では新卒一括採用は行われておらず、日本も新卒一括採用はやめるべきとの論調が出てきているように思いますが、データ上(英国は2019、日本は2017の調査)からも、数年前まで英国系企業グループに勤務していた筆者の感覚からもずれており、欧米に倣って学卒一括採用そのものを否定的にとらえるのはかなり乱暴に感じます。

 

また、この日英比較研究では、採用と育成の類型(新卒注力・長期的育成、中間型、中途注力・短期的育成の3類型)による比較も行われており、日英ともに、新卒注力・長期的育成企業において、組織的コミットメント(会社に愛着を感じている、会社は自分を鍛える場である、会社の発展のため最善を尽くしたい)が最も高く、英企業ではいずれも7割を超えた社員が肯定的です。なお、日本企業では愛着は6割(その他は7割)と英企業より低い一面があります。

日英とも、中間型、中途注力・短期的育成の順で組織的コミットメントは下がっており、長期的育成視点の取り組みが組織的コミットメントに正の影響を与えていることが示唆されます。

 

また、この調査では、コミュニティ性として、職場の雰囲気についても類型ごとに明らかにしています。

部下や後輩を育てようとする雰囲気、一人ひとりの能力を引き出そうとする雰囲気、業績を伸ばそうとする雰囲気、仕事上で助け合う雰囲気のいずれも、日英ともに新卒注力・長期的人材育成企業が最も高くほぼ7割の社員が肯定的です。

組織的コミットメントと同様に、中間型、中途注力・短期的育成の順で下がる結果となっており、この点においても長期的人材育成の取り組みが正の影響を与えていることが示唆されます。

 

こうした人材施策と社員の心情との関連における因果関係を明らかにすることは難しいですが、上記の結果を見ると、日英企業ともに長期的人材育成が組織的コミットメントや職場の雰囲気に関係していることを認めており、そうしたことからも長期的人材育成を重視することが企業戦略のなかでも極めて重要であるとあらためて思うのです。