某飲料メーカー社長が経済同友会の研修での講演時に、「これからは45歳定年にしてその後の人生は会社に頼らない仕組みが必要だ」と発言して物議をかもしています。定年という言葉を使ったのがまずかったと訂正発言をしていますが、会社に頼らない仕組みとはどんなものがあるのでしょうか。
フリーランスや起業を念頭に置いているのでしょうか。
大企業のトップとは思えない、ずいぶんと突き放した発想で驚きますが、45歳という中年期は人生の半ばでもあり、その後の人生についてあらためて考えなければならない時期であることは間違いないでしょう。
この時期は、生物学的にも社会的・心理学的にも、また家族関係においても変化の多い時期です。
その際の心理的変化の内容とプロセスを、自我同一性の視点から考察したものとして、少し古いですが『中年期の自我同一性に関する研究』(岡本1985)があります。岡本は、この時期の心理的変化について以下の5つが顕著だと言っています。
(1) 体力の衰え
中年期の否定的変化を最も如実に認識させるのは、体力の衰えであり、ほとんどの被調査者にとって、これが自分の限界を感じる最初の契機であるとしています。
(2) 時間的展望のせばまりと逆転
時間的展望のせばまりとは、「残り時間が少ないという限界感は徐々に深まっている。」、「何かをやり始めるにはもう遅すぎると常に感じる。」多くの被調査者が感じているところです。
逆転とは、「これから生きられる年数の方がより重要になり、死の側から自分の年齢を考えるようになった」ことを意味しています。
(3) 生産性における限界感の認識
中年期にある職業人にとって、体力の衰えと時間的展望のせばまりによる限界感を最も痛切に感じるのは、職業に対する能力においてであり、限界感の認識によるあせりや停滞感が顕在化してきます。
(4) 老いと死への不安
40代になって自分が老いていくことや死へ近づきつつあることへの関心や不安が強くなったということを半数の被調査者が感じています。
(5) 自己確立感、安定感の増大
(1) から(4)は否定的変化ですが、肯定的変化もあります。
「これまでは学ぶ時期だったが、40代になってようやく教えることができると感じるようになった 。」「 私に対する会社での評価はベテランということになってきた。」
会社のなかで認められてきた、あるいは根づいてきたという意識は、40代になって自我同一性(アイデンティティ)の確立感、安定感が増してきたことを示しています。
私が注目したいのは、(5)自己確立感、安定感の増大です。
この安定感(覚)は自分の居場所を確保し、今後の方向性を考えるためには必要不可欠であり、この認識を確立するためには、一定期間の社会的相互作用が必要です。
45歳とは、この安定感覚を得られる年齢であり、会社などの組織社会では次世代に何かを伝える重責を担ってくるのだと思います。
組織内での関わり方はそれぞれでいいのです。つまり、役職がすべてではなく、それぞれの能力特性に応じて次世代への伝承をしていけばよい。
少子高齢化がどんどん進むことを考慮すると、中年期以降の世代は今後ますます必要であり、ますます能力を発揮してもらわなければなりません。
会社に頼らない仕組み作りなどは、一部の独立志向の人たち向けでよく、会社ではいかに中高年世代に気持ちよく働いてもらうかが重要な経営課題になるはずです。