戦後の日本企業の統治構造を、江戸時代の「イエ(家)」=藩を中心とした統治機構の流れを汲んだものとする研究は少なくありません。

その中の一つに、日本企業の特徴を、①超血縁性(縁約)②系譜性、③機能的階級性、④自立性とする

考え方があります。(「文明としてのイエ社会」村上・佐藤・公文共著1979)

 

超血縁性(縁約)とは、武家社会にあったように非血縁者も「イエ」のメンバーになることが可能で、いったんメンバーになれば終身「イエ」に仕える関係であり、学卒で新入社員として入社したら定年まで働くことを暗黙の了解とする特徴を表しています。

系譜性とは、存続を目的とすることです。欧米企業の多くが利潤最大化を目指しているのとは異なり、お家大事として企業・組織の存続が大事であると考えることです。

機能的階級性とは、部長-課長-係長といった階層が、職務を明確に規定した階層ではなく、命令系統だけを意味し、職務は状況に応じて適宜決定されることを意味します。

自立性とは、外部への依存を減らし、内部の系列企業などによる株式持ち合い、系列企業間での材・サービスの調達など、内部を中心に自立していることをいいます。

 

この論からわかることは、日本企業は利潤追求よりも存続すること、すなわち社会的価値を提供し続けることを目指しており、そのためには環境変化にうまく対応することが必要であり、結束を重視して適材適所で臨機応変に対応できる体制を構築していた、ということになるでしょう。

 

翻って現在の日本企業の状況は、結束を弱めるどころか関係性を軽視し、臨機応変な対応が苦手な組織をわざわざ作っているように思えます。

正規・非正規社員といった人材の二重構造は、費用を削減し利益は生みましたが(なお、経営者の報酬と株主への配当を増加させたたけで従業員の給与は上がっていません。)人材の育成、有効活用に影を落としています。

専門能力を重視して能力発揮がしやすいとされるジョブ型雇用は、人材配置の硬直化につながりかねず、また能力の壁により組織内の情報交換を難しくするリスクを上昇させます。

内部化は悪として外部一辺倒の施策は、調達の不安定化・リスク上昇などを招きます。

 

90年代以降、今も新自由主義の悪影響が続き、利潤最大化、効率重視の度が過ぎて、変化対応が機敏にできない組織をわざわざ作ってしまっているように思えるのです。

企業や組織の存在価値は、社会的価値を提供し続けることです。

このし続けることに重きを置けば、組織内の結束と環境変化に機敏であることが肝心なことは自明でしょう。

 

イエ社会というと、内弁慶、内向き、内輪の話などネガティブにとらえる向きがありますが、案外人間社会における大切な価値観を内包していると思います。