65歳雇用の義務化、70歳雇用の努力義務化を受けて企業ではいわゆるシニア層の戦力化に向けた議論が進んでいると思います。
従来のシニア層の扱いは、60歳定年後の再雇用であり、担当業務はそれまでとは異なり、給与もそれまでの3割4割といった水準で、企業にとってはいわば上がりのポジションでお荷物扱いの様相でした。
少子高齢化で労働人口はどんどん減少するなか、各企業においても戦力としての働き手の減少は現実味を帯びた課題となっています。
65歳雇用の義務化はそうした状況の打破というよりは、年金財政からの要請の側面が今のところ強いかもしれませんが、10年後を見据えると働き手の減少は企業により多少の差はあれ確実に現実化してくるでしょう。
そんな状況のなかでシニア層の戦力化が議論されていますが、まだ戸惑っている企業が多いのが実情のようです。
お荷物、上がりだと思っていた人たちを戦力化しなければならないのですから無理もありません。
これからは逆転の発想が必要で、個々人の就業ニーズを満たしたうえで、長年の経験で培ってきた知の伝承や活用を一層推進してもらわなければならないのです。
シニア層は就業ニーズは高いのですが、能力のバラツキが大きいのが特徴と言われます。
また、仕事へのエンゲージメント(仕事に活力、やりがい、誇りを感じ熱心に取り組んでいる状態)も管理職経験者と一般職では大きく異なり、管理職経験者のほうが有意に高いことが調査でわかっています。
そうしたバラツキのある人材をどのように戦力化していけばよいのか、実際の方策は各企業の実態を踏まえてきめ細かく設定する必要があるでしょうが、共通要件もあります。
まず必要なことは企業としての期待を明確化し、本人に伝えることはもちろんのこと、社内にも周知することです。お荷物や上がりではないことを明確にするということです。
次に、自分の能力に見合った役割を自ら見出してもらうこと、つまり強制しないことが重要となってきます。
なぜなら、これはシニア層に限らずですが、人は言われた役割より自ら見出した役割にモチベーションを感じるからです。
こうしたことを考える準備機会としてキャリア研修とキャリア面談は必須と言ってよいでしょう。
それからもう一つ大切なことは、多くは年下になるであろう上司のあり方です。
個人課題や些細なことを指摘する、他のメンバーと異なる扱いをする(気を遣い過ぎる)とモチベーションが下がることが明らかになっています。
ベテランにはベテランとしての扱いが必要ですが、過ぎたるは及ばざるが如しということでしょう。
もちろん、報酬のあり方も若年層との整合を考えたうえで戦力化に見合ったものに再設計する必要があります。
こうしたことを踏まえると、シニア層の戦力化はシニア世代の問題というより、人事施策全般に影響を及ぼす一大改革であり、それ相当の覚悟をもって臨むべき課題と考えられるのです。