本年4月より高年齢者雇用安定法が改定され、65歳までの雇用が実質的に義務となり、70歳までの雇用が努力義務となりました。
健康な高齢期を過ごすことが可能になった現在、70歳まで働くことは難しいことではありません。
少子高齢化による労働力不足を補うには、できるだけ長く働くことが必要でしょうし、シニア世代の知恵を活かすことは企業にとっては重要な視点です。
年金受給期の勤労者が増えれば、年金受給額を減らすことにもつながり、年金制度の健全化に寄与することも期待できます。
したがって、日本の将来を考えると定年延長は必須といっていいでしょう。
しかし、経営を考えると、今まで通りの人事政策では立ち行かなくなることが容易に想像できます。
まず賃金についてですが、今後は同一労働同一賃金の徹底を一層求められますから、高齢者だけ賃金を下げることは難しくなるでしょう。
そうなると考えられるのは、賃金上昇カーブの変更です。
若い頃の給与を低く抑え、後になって取り戻す従来型の賃金上昇ではなく、若年の水準を上げて、高齢期になっても大きくは下がらない今よりもフラットな賃金体系になるでしょう。
次に職務についてですが、従来は勤務地や職務を限定しない雇用が中心でした。しかし、高齢者が増えることで、勤務地や職務限定型を増加せざるを得なくなります。
また、高齢者以外にも勤務地や時間限定を希望する層が増加傾向にあるため、今後は限定型の割合が増えてくるでしょう。
つまり、今より一層個人の都合が重視されることで、企業側からすればフレキシブルな配置がしにくくなり、その点から給与抑制の力学が働くことになります。
余談ですが、最近話題にのぼることが多いジョブ型雇用は、欧米ではいわゆるブルーワーカーとホワイトカラーの専任職が中心で、職務限定のため給与は上がらず、日本の同職務の給与に比べればかなり低いのが現実です。
ホワイトカラーのうち経営管理、財務、人材開発、マーケティング、商品開発等の高い専門能力を必要とする職務はジョブ型とは言い難く、いわばメンバーシップ型で、勤務地や職務内容は会社都合で変動し、それに従うことで出世の階段を上り給与も高なっていきます。
誤解を恐れずに言えば、職務限定を選択すると、そこに縛られ、給与の上昇も望めない階層に甘んじることになります。社会が階層の色合いを強く残していると言えます。
これからは長く働けるかわりに給与の上昇については多くを望めないことを理解しなければなりません。
未知のことだけに不安が先に立ちますが、戦後の混乱から見事に復活した先人たちの知恵に学ぶことで新たな展望が見えてくるのではないでしょうか。
先人たちは経済合理と人間重視の両立を目指しました。
そして、いわゆる日本的経営として欧米にない、欧米企業が参考にして取り入れる仕組みを編み出したのです。
定年延長を機に温故知新をもって、もう一度日本企業を、日本社会のあり方を見直す時期が来ているのだと思います。