南アフリカ戦の勝利に始まり、最終アメリカ戦の勝利で終わった日本のラグビーワールドカップイングランド大会。大方の予想を裏切り、ジャパンの健闘が心に残る大会であったが(まだ決勝リーグは残っているが)、そこにはエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)の卓越したリーダーシップがあったことに異論はないだろう。
リーダーは、方針を掲げ、戦略を練り、PDCAを回す。しかし、チームはそれだけでは十分に機能しない。チーム=組織は人なり、人は感情をもつ動物である。メンタル面の状況次第で結果は大きく違ってくる。エディーさんはメンタル面の対応で卓越している。
エディーさんは、選手をよく観察して性格をつかみ、なぜラグビーをするのか、動機まで把握し、プレースキルだけでなく内面も理解しなければならないと言う。練習中に何か違和感を覚えた時には一対一での対話を進んで行う。調子を落としている時はたいてい心に原因があり、葛藤、壁、悩みを感じていることが多い。そういう時には声をかけ、選手の感情・心理を理解し、フィードバックを行う。そこにセオリーや決まりごとはなく、感じるままに真剣に伝える。
同じようなケースの場合、励ますことに重点を置くリーダーは多いが、それだけでは成長しない。選手に自ら考えさせる。手を差し伸べずに、這い上がってくるのを待つことも必要である。這い上がるのに時間がかかる場合もあるだろうし、余計に落ち込む危険性もある。しかし、エディーさんは敢えて行う。
人が成長するには内発的動機が必要で、それを得るには自分との対話が欠かせない。他人から励まされてすぐに動機付けされるのであれば、誰も苦労はしない。自分との対話がうまくいかないから悩むのだ。エディーさんは、自分との対話をうまく行えるよう促すことに秀逸である。
ジャパンが強くなったのは、スキルとフィットネス(体力)の向上によって、“ジャパンウェイ”を実現したことが大きいとされる。しかし、エディーさんの前のカーワンHC時代もスキルとフィットネスは相当上がっていた。ただ、ミスが多く勝てなかった。プレッシャーからの焦り・不安がミスを生んだ。エディージャパンはそれを克服した。広瀬選手は試合には出られない技量だが、皆の精神的支柱になるという理由でチームに加えられたし、メンタルコーチを帯同していることからも、メンタル面を重視する姿勢がみてとれる。戦術・スキルの追求だけでは世界レベルでは勝てない。世界を舞台に戦ってきたエディーさんはそれを熟知し、アーティスティックなコーチングでメンタル面を強化した。
他人への指摘は多いが自分はやらないとエディーさんに叱られていた五郎丸選手、今大会でのプレーの質、醸し出される雰囲気は、模範になるレベルであり、世界でもトップレベルにある。本人の努力あってこそだが、エディーアートの傑作である。