『今まで会った人の中で一番格好良かった!俊二なんかよりも!』

と言うのは、みこちゃんが当時心魅かれていた職場の上司である。

よく分からないが俊二よりもずっと端正な顔立ちで、仕事の出来る男だったらしい。

そんなみこちゃんもバツイチ子持ちに関わらず、気さくで可愛かった為、男性社員から断トツで人気があった。

 

二人は自然と惹かれあったが、その上司は妻子持ちだった為お互いどうこうしたい訳でもなく、可愛らしいデートを何回かした程度と言っていた。

その『可愛らしいデート』の定義も曖昧な所で、惹かれている時点で浮気といえば浮気だし、いや本気になるのか?

そもそもまだ若い男女が可愛らしく済む訳がないと思うのだが、なんとなく突っ込んで聞くことは出来なかった。

なな子がいるのにそのデートは一体いつしたのか、それだけは尋ねてみたら、『えー保育園に預けている時で、自分が仕事休みの日じゃない?』と。

あれ、自分が仕事休みの日は保育園を休ませて必ず一緒に過ごしてたんじゃなかったのかい!と軽く突っ込んでみたが、『まあそういう時もある』と実に軽い反応だった。

浮気の定義、是非‥は悪いに決まっていて、自分も俊二にされたくせにとか突っ込みたい気持ちはあるけれど、みこちゃんが子供と仕事だけでなく、そういう時間も少しあったことにホッとしていたりする。

そして常に人は人に惹かれ、動くことが面倒でなければ、ポンと乗り越えてしまう危うさも改めて学んだ。

色々と人に恋したみこちゃんが、恋から離れて最後に辿り着いたのは、

『よっぽど人間的に欠落しているとか、よっぽど価値観が合わないとか、そういう相手じゃない限り結婚しちゃえば誰でも然程変わらない。男女なんてそんなもん。』

という考えだった。

確かにそこそこ優しくて、そこそこ価値観やテンポが合い、生理的に無理じゃなければ、誰でも然程変わらないかもしれない。この『そこそこ』を見極めるのが意外と難しいとは思うが。

 

 

ある日みこちゃんの担当レジに、そっと小さなプレゼントの包みを差し出した男性客がいた。

小柄で優しそうなその男性は彼女のタイプではなかったけれど、なな子を可愛がってくれたことと特に害がなかったことで、見事、いや不幸なことにみこちゃんの二番目の夫となる。

何しろ再婚を決めた最大の理由は、『お風呂のある家に越したかったから』なのだから。

ただ彼女のタイプではないというだけで、『あんたの旦那さん格好良いわよね』と人から言われるまでその中々整った顔に気付いてもらえなかった、可哀想な男である。

そしてこの安易に選んだ夫が、みこちゃんの挙げる結婚には向かない『よっぽど価値観が合わない男』だということに、割と早い段階で気付くことになるのだが。

 

 

こうしてみこちゃん母娘はアウシュビッツを脱出し、念願の風呂付のアパートに移り住んだ。

2LDKの狭い部屋だったが、いつでも好きな時にお風呂に入れるこの家は、彼女にとって正に天国だった。

みこちゃん31歳。なな子5歳。

新しい生活の始まりである。