あれから何度か通院し、左指のギブスが外れました。

しかし、ギブスで固定されていた指はどんなに力を入れても、まっすぐ伸びたままで曲げることができませんでした。

その指はじゃんけんのグーができない状態なのです。


「リハビリでまた曲がるようになりますよ」

ドクターは簡単にそう言います。


そんな医者の言葉を信じ、しばらくリハビリに通いましたが、2ヶ月以上経っても指は元に戻りません。

ショックです・・・・。

頭部に縫った34針の傷口よりも、この指にこだわるのには理由があるのです。


リンには子供の頃からイロイロ楽器を弾く趣味があり、この当時は三味線を演奏していたのです。

年に数回、舞台で演奏する腕前で、名取も目前でした。

三味線を弾くには、この指が曲がらなくては致命的なのです。


「指がまっすぐなままだと三味線が弾けない・・・、なんとか指を曲げて固定してもらえませんか?」


困惑したドクターは、

「もう一度、骨を折るしかないですよ」


リンは迷うことなく、お願いしますと頼み処置をしてもらいました。

ボキッッッ!と言う鈍い音とともに激痛が走ります。

きっと普通の人には耐えられない痛みでしょう・・・。

そして無理やり曲げた指はギブスで固定されました。


そうして1ヶ月が経ち、またギブスを外してリハビリ開始です。


そんな頃、リンはバイトが決まりました。


実は以前、7年間ほど歯科関係に勤めた経験があるのです。

夜の仕事に比べると安い賃金ですが、働く意欲もあるので頑張ってみることにしました。

酔っ払い相手にお酒も飲めなくなったことですし・・・。


決まったバイト先には、ケガのリハビリで病院に通うことも承諾してくれて、とても都合よく働くことができました。


ゆっくりと月日が流れ、リンはケンジに殴られることなく仕事と家事をこなし、なんとなく普通に暮らしています。

指はなかなか治りませんけど・・・。


春になり、ケンジと付合って一年が経ちました。


相変わらず些細なことで時々文句を言われますが、殴られるより平気です。

そしてケンジは週末にはお酒を飲みます。

酒乱の気配を感じたら、リンはビジネスホテルに泊まったりして回避しました。

やっぱり仕事して正解です。

咄嗟に使えるお金があるのですから・・・。

ビジネスホテルに使ったお金は、翌日反省したケンジからしっかり貰えるんですよ。


そんなケンジとの平凡な暮らしが少々続き・・・、リンはある朝とてつもなく目覚めの悪い夢を見たのでした・・・。