私が14-1の達人に出会ったのは、江戸に引っ越して来て間もない15年ほど前のことでした。
14-1の上手な人がいたらぜひ教わりたいと思っていた私は、日頃から店員に話していたのです。
「14-1を教えてくれる人はいないかなあ。真剣にやってみたい。」
それからしばらくしてこの達人が店に来たのです。
達人のことは事前に店員から聞いていました。
「昨日すごい人が来ましたよ。」
「すごい人?」
「14-1ですよ、14-1。昔角当さんと一緒にやっていたとか言ってましたよ。」
「ええっ! 角当さん? そりゃすごいな。ぜひ教えてほしいものだ。」
歳は私より一回りくらい上でしたかねえ。
達人は店員から聞いていたのと同じことを私にも言いました。
「14-1か。昔角当とよくやったもんだ。」
早速教えてもらうことになったのです。
角当(かくとう)哲朗P。
みなさんはご存知ですか?
確か彼は30年前のビリヤード大ブーム時代の直前に引退していますので、今となっては知る人も少ない。
かく言う私も一度チラリと拝見したことがあるだけで、もちろん対戦したことはありません。
ものすごく強かったそうです。
蔵之前さんによると「誰がなんと言っても歴代最強は角ちゃんだ。」と、それだけは絶対に譲りませんし、他人の球を褒めない中島啓二も「球を撞くために生まれてきたような人だ。」と絶賛しておりましたから。
1978年にプロ選手権で総合優勝しておられますのでどんな種目も強かったはずですが、中でも14-1が絶品でニックネームが「精密器械」ですからね。
精密器械。
いいですねえ。
私、一度でもそんな事を言われたら、その日のうちに当ブログの名前を「精密器械のブルース」に変更しますよ
さて、達人との対戦が始まりました。
なんてったって相手は角当さんと一緒にやっていた人ですから、これは勉強になります。
「お願いします!」
私は大喜びでした。
ところが・・・
それだけじゃありませんよ。
期待していた戦術も、1つか2つ入れてはセーフティー。これの連続で魅力もロマンも何もないイレイチ14-1。
シロウトの私が見てもわかります。
14-1というゲームは、未経験者が経験者のフリをしても5分以内にバレます。
私もね。嫁に浮気がバレた時に5分どころか3秒でバレる嘘をついたことはありますよ。
でもそれは緊急事態ですから、ビリヤードで法螺を吹くのとわけが違う。
私は考え込みましたよ。
淋しいことに、これが角当さんに関する私の思い出の全部なのです。
前置きが長くなりましたが、本日は角当さんの映像をお届けします。
これは数年前に金沢の加藤P秘蔵のVHSを焼き直したもので、画像をきれいにしてくれるよう専門家に頼んだのですがこれが限界でした。
1981年の全日本プロ選手権14-1決勝
井上淳介VS角当哲朗です。
試合前のセレモニー。
冒頭に挨拶しておられるのがプロ協会初代理事長の森口さんで蔵之前さんの師匠です。
みなさん若いですねえ。
この時代の映像はあまり残っていないようなので、オールドファンの方はじっくりご覧くださいませ。
花谷さんいわく、角当さんのは「少しづつ端から削るような14-1」だそうです。
前回書いたように、14-1にはドカンドカン壊すアメリカ式と少しづつ壊すヨーロッパ式がありますが、角当さんはヨーロッパ式で、対する淳介さんはそれよりも少しアメリカ寄りのような感じがします。
まあ、このあたりは好みでしょうね。
そういえば、この映像に淳介さんの自戦解説の音声を入れるつもりでいたのがすっかり忘れていました。
今度大阪に行った折に収録しようと思います。
覚えていたら・・・