昨年か一昨年のこと。
私は大阪から遊びにきた友人と一緒に某球屋に行ったのです。
ビリヤードを長く続けていますと全国的に球繋がりの友人がいますので、出張の時なんかにこうして対戦するのは大きな楽しみのひとつです。
さて、入店した途端に友人は顔をしかめました。
「ねえねえ、この店っていつもこんな感じなの?」
「ん?」
その時は8台が稼働していましたが、その内訳は1台がカップルでそれ以外の7台全部が一人練習だったのです。
「この人たち・・・どうして相撞きしないの?」
「それを聞くな。わしにもわからん。」
江戸は全国のポッチを集めて作ったような街ですので、友達のいない人がものすごく多い。
「ひとりカラオケ」のような商売を私は「ポッチ産業」と呼んでいますが、このポッチ産業が江戸ではなかなか流行っているそうな。
球屋も店によっては「ひとりビリヤード」の様相を呈しておる。
これではいかんというので、数年前に相撞き希望のサインを考案した方もおられます。
灰皿に15番を入れておくのを「相撞キヲ希望シマス」というサインにしようというもので、これなら声を掛けやすいだろうというわけです。
それにしても、コミュニケーション能力のない連中は世話が焼けますな。
でも、不安がひとつあります。
灰皿に15番を入れたまま椅子に座り込んでいるのがズラリと10人並んでいたらどうします?
それはもう珍百景と言うか何と言うか・・・
一人練習は、とても大事なんですけどね。
ただ私の経験上これは自信をもって言えますが、一人練習だけでは絶対に上達しません。
本日はこのあたりをネチネチ書いてみようと思います。
私はビリヤードを始めて2年ほど経って郷里の福山に帰り、それから約3年間ずっと同じ友人と二人だけで撞いていました。
どこかに書きましたが、当時の福山のポケット競技人口は私たち2人だけだったからです。
40年くらい昔のことで、インターネットもビデオもない。
新知識を得る手段がありませんので、3年間二人でいろいろ考えながら練習を続けていたわけです。
その後、大阪に出て間もない頃。
相手がこんな球になったのです。
「9番はなるべくまっすぐにしろ。」
私は上級者から教わったことを覚えていましたが、上図の8番から9番にまっすぐに出すのは非常にむずかしい。
押しても引いてもスクラッチがありますから、ちょっと特殊な事をするしかない。
どうするんだろう、と思って見ていたら、
相手は迷うことなく8番からちょっと引いて、
薄い9番を入れたのです。
どうって事もない話ですみません。
でも、私はこの球にとても驚いたのです。
40年ちかく経った今でもはっきり覚えていますから、よほど驚いたのだと思います。
福山は鎖国していたわけではないんですけどね。
みなさんご存知のように私は天才ですが、才能を開花させようにも鎖国同然の環境では如何ともしがたく、ビリヤードを始めて5年以上も経ってこんな球も知らなかったわけです。
ですからね。
最初の一人練習の話に戻りますけど、どんなに考えたところで一人の知恵なんてのはたかが知れているのですよ。
さて、一人練習だけでは上達しないとなると、自分より上手な人を捕まえて対戦するしかありません。
ここで登場するのが、お馴染みの「見て盗め」です。
本日のお題目は「見ても盗めん」ですが、ああ、やっと本題に辿り着いた。
「見て盗め」。
これは非常に便利のいいフレーズで、私も教えるのが面倒臭い時なんかに愛用していますが、実際のところ見て盗める球と盗めない球があります。
まずは盗みやすい球。
この1番どうするんだろう。入れる穴がないぞ。
と思っていたら、
相手は手球で5番を入れた。
これなんかは一目瞭然。
「あっ、その手があったか。なるほど。」
すぐに盗めます。
これ、どうすんの?
相手は2番から押し球で9番を入れた。
「押し抜き」と呼ばれる球でちょっとだけ高級ですが、盗むのは簡単です。
ただ、盗んだからといってすぐに使えるほど簡単ではありませんので、後で一人練習をする必要があります。
次は盗めない球。
14-1の例をあげてみます。
この球と、
この球。
向きが違うだけで同じ球です。
ここにブレイクボールの10番を追加してみました。
さて2番と3番、キーボールはどちらでしょう。
不思議なことに「どちらも同じ」は不正解なんですな、これが。
この場合、キーボールは2番です。
3番は不可。
理由を説明しますね。
2番から少し引いてくるわけですが、そのラインと10番のシュートラインがまあまあ平行に近いので手球のコントロールをイメージしやすいんですな。
一方3番から引いてくるラインは10番のシュートラインを横切る形ですので、イメージしにくい。
というわけで、キーボールは2番の方が優秀だということになります。
もちろんどれから入れても自由ですので、3番をキーにする人もいるかも知れない。
それでもピッタリ出せれば結果は同じですけど、ただ、それではチャレンジマッチをやっても客は来ません。
問題はですね。
3番より2番の方が優秀だという事を見て盗めますか?
そこですよ。
結論を申し上げます。
こういうのは説明してもらって初めて理解できることで、この球を見ただけで盗む人がいたら天才ですよ、天才。
えっ?
私ですか?
私も天才ですけど、この球は先輩に教わりました。
見て盗むということがどれほどむずかしいか、今回はそれを書こうと思っていましたが長くなったので続きは次回。