【ひつまぶしへ向かって走れ!】前編 | ボストンテリア日記~僕とボーズと時々ツレ

ボストンテリア日記~僕とボーズと時々ツレ

 僕が出会ったボストンテリアという犬とそれにまつわる生活についての記録です。名前はボーズ。僕のツレが逢わせてくれました。
 更新は週に一回くらい出来れば良いなぁと思ってます。
 時々くすりとでも笑って貰えれば幸いです。

 寝坊した二人と一匹が秋芳洞のホテルを後にした時、時計は午前十時近くを指していた。
 本当は今日の午後六時までに千葉に到着し、そこで新居の鍵を受け取ってゆっくりと過ごす……筈だったのに。

 この時間では六時に千葉など、休憩無しでぶっ飛ばさなければ無理。これでは何のためにわざわざ途中で宿泊したのか、解らないではないか。それでもアクセルべた踏みで頑張ってみることにした。


 晴れ渡った3月のハイウェイへとひた走る青い流星号は、何も無い中国自動車道を時速○○○Km(大っぴらには言えない数字)で駆け抜けた。

 さらに悲劇の大震災からすっかり復旧なった阪神自動車道を抜け、やっと名古屋に着いた頃は、既に時刻は午後の七時を回っていた。

 広島大阪京都で降りて美味いもの食おうという目論見はあっさりとパスである。昼飯は途中のサービスエリアで済ませた。広島風お好み焼きがあったので、せめてもの抵抗でそれを食したが、なんだか不完全燃焼である。悔しい。


 そのパーキングエリアでボーズを抱いてベンチで休んでいると、お金持ちそうな老夫婦不思議なものを見る目で僕らを見て何やらひそひそ囁きあっている。

 そうかそうか、珍しい犬種だから注目されるのも仕方ないな。(当時はそんなにメジャーではなかったんですよ、ボストンテリアは)

 な?ボーズと二人でにやにやしていると老婦人が歩み寄って来て、僕にこう言った。
「あの……それ、猫、ですよね?
 僕は驚いた。猫に首輪を着けて連れ歩く人が居ないとは言わないが、まさかいきなりこんな質問をされるとは。胸がどきどきしている。しかしその驚きを気取られないように、僕は答えた。
「ええ。ブラジルの奥地で発見された、珍しい種類なんです」


不思議なもの

「ブラジルの奥地で発見された、珍しい種類の猫」


 声が掠れたり上ずったりしなくて良かった。老夫婦は納得したように立ち去った。僕は密かに額の汗を拭いた。胸はまだドキドキしている。


 それにしても長い長い旅。日本列島を車で縦断なんて、そんなに誰しも機会があるわけじゃない。結構大事業かも。コロンブスの米大陸発見とかと並ぶかも。とか一瞬考えたが、そんな事言ったら長距離トラックの運転手さんは毎日「八十日間世界一周」だ。毎日なのに八十日間、ってのが妙ですが。


 ともかく我々二人と一匹は既に空も暗くなった名古屋に到着した。もうこの時点で「千葉に六時」は、ドラえもんが居ない限り不可能だ。のび太の机の引き出しがこの車についていたら。

 しかしそんな事も言っていられない。ならば「ひつまぶし」だ。

 「ひまつぶし」ではない。昔通っていた大学の近所に「ひまつぶし」というディスカウントストアがあったが、店がひまでつぶれてしまった。いやいやそんなこともどうでもいい「ひつまぶし」である。
 名古屋名物は数あれど、筆頭はこれだ。何を隠そう、僕はうなぎが大好物なのだ。別に隠す必要は無いんだけど。

 知らない人のために説明すると、おひつのご飯にうなぎがまぶしてあるのがひつまぶし。これを、そのまま、薬味をかけて、お茶漬けにして、と一粒で三度美味しいご飯なのだ。


 ということで、名古屋インターを降りて熱田さんへ走った。熱田さんとはもちろん熱田神宮のことである。僕らは熊本へ向かう時も名古屋で降りてひつまぶしを食べている。だから店のある場所は良く知っているのだ。

 他にもひつまぶしを食べさせる店はたくさんあるらしいけれど、その店は地元でも有名だという話で、実際美味しかったし、時間も遅いことから他を探す余裕も無い。当然直行なのだ。

 道を知っているので迷う事は無かった。しかしインターを降りてから熱田神宮までは結構遠い。またもや走りに走り、熱田神宮脇にぼんやりと灯るその店の明かりが見えた時、時計は八時丁度を指していた。
 その店の広い専用駐車場には車の数が数えるほどしかない。嫌な予感が頭を掠める。僕の嫌な予感は大概当たるのだ。

 ガラ空きの駐車場に車を停めると僕とツレは、ボーズを車に置き去りにして(まぁひどいこと)店の入口へと走った。



 ふたりは「ひつまぶし」に間に合うのか?!そして車に置き去りにされたボーズの運命は?!

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