数日後。
足が無いのでバスに乗ってディーラーまで出かけた。迎えに何か来てくれないのだ、ここは。
ディーラーの担当者は僕の車を「珍しいですねぇ。今あまり走って無いですよね。でも、そのせいで部品とか色々大変なんですよねぇ」と、軽く関心しながら遠回しに買い替えを勧めて来た。
「新しいの入ったんですよ。試乗しませんか?」
ほうら来た。やっぱり買い替えを勧めて来たのだった。
担当者が試乗を勧めたのは僕の車とは違う国のメーカーで、フランスのプジョー206CCという車だった。そのディーラーは青い流星号のメーカーとその他にフランスの車も扱っていて、担当者は僕の車の屋根が開くので、同じように屋根の開く車を勧めて来たのだ。しかもあっちは幌では無くて、電動ハードトップだ。
僕はわざわざ解り易く迷うフリをして、
「それじゃ……ちょっとだけ」
などと呟いて、ウキウキと乗り込んだ。
しかし悲劇はその後に起こった。戻らないクラッチの他に、僕には更にとんでもない落とし穴が待っていたのだ。
オープンカーに乗るボーズ。(成長後)
・・・あんまり関係ないけど人気取りの写真。
ベロが出てますよベロが。引っ込めなさい。
僕は言われるままに運転席に乗り込んで、エンジンを掛けてふかしてみたり屋根を開けてみたりして、色々いじったり触ったり(ホント)、舐めたりしゃぶったりしてみた(ウソ)。その後助手席に営業担当者を乗せておもむろに公道に出た。
担当者の道案内に従って軽快に車を走らせる。でもちょっと下のトルクが足りないなあなどとぶつぶつ文句を言って、牽制しておく。1600くらいですか?え?2000もあるの?それでこんなトルク?本当は知っているけれど知らないフリ。下手に気に入ったフリなどしたら本当に買い替えさせられちゃったりするもんね。
「でも上(の回転域)は(トルクが)あるんですよ」
営業マン必死。
「今の僕の車、知ってるでしょ?こんな細いトルクじゃ」
「いやいや、あのお車と比べられちゃ困りますよ~」
汗を浮かべる営業マン。駆け引き合戦である。なんとかしてこの車の良さをアピールしなければと思ったらしい彼は、スピードを出させて納得させる作戦に出た。
「この先の道は広くて飛ばしやすいんですよ。ここを左に曲がってください」
そう言われて曲がってみると確かに広くて走りやすい道だ。両脇は見通しの良い畑。
僕は言われるままに加速した。下のトルクは足りないけれど、さすがに上は気持ちよく回るエンジン。屋根も開くしう~ん、快適快適。
などと思いながらアクセルを踏み込んでいった。
スピードメーターが80キロを過ぎた辺りだっただろうか。畑の中から突然赤い旗を振りながら男が道に飛び出して来た。
赤旗
「危ない!」
僕はその男を怒鳴りつけながら避けたが、様子が変だ。僕の車を走って追いかけて来る。それになんだか制服のようなモノを着ている。三角の赤い旗には「止まれ」の文字が。赤旗。さては……共産党員か?赤旗購読の勧誘か?でも僕は保守派だからね。残念だけどね。
取りあえず僕は道の脇に車を寄せた。
近づいてきた赤旗の男はもちろん共産党員などではなくて、警官だったのだ。なあんだ、警官か。共産党員かと思った。共産党員ってしつこいからな。びっくりさせるなよホント。
……え?警察官?
あとは経験のある方ならば良くご存知だろう。
僕は目立たないように脇に停めてあるワゴン車に放り込まれ、色んな事を言われ、サインさせられ、左手の人差し指の指紋を取られた。
僕はスピード違反で赤切符。切符は赤でも気分はブルー。ディーラーの担当者も申し訳なさ気に顔色がブルー。
もちろん買い替えの話などその後出るワケも無く、それでもクラッチの修理代と点検代はしっかり取られたのでした。
皆さん、試乗するときには、ディーラーの言う事だけは聞かないようにしましょう。少なくとも、スピードを出そうとする時には(泣)。
この話には後日談があります。人の縁というものは不思議なもので、実はそのディーラーの担当者とはそれ以来、二度と会っていません(不思議じゃないってば)。
次回、お待たせしました。
再びボーズ登場!