名前を呼ぶ練習もしっかりこなしてから二週間後の日曜日。僕らはおばあちゃんの家にボーズを迎えに行くことになっていた。
ボーズが家に来る前に色々と揃えてあげないと可愛そうだというツレの主張のもとに、僕らはドッグフードやら犬用クッションやら犬用ガムやらブラシやらおもちゃやら何やら様々なものを買い込んだ。
それらを眺めているうちに僕は気分が落ち着かなくなってしまい、それらで遊び始めてしまった。
ボールを壁に投げて拾って投げて拾って。また投げて拾って投げて拾って。またまた投げて拾って投げて拾って。気がつくと既に三十分ほども経過している。これは一体どうした事だ。薄っすら汗までかいているじゃないか。気付かないうちにおもちゃで必死に遊んでいた自分に戸惑う。しかもそのおもちゃは犬用なのである。僕はヒロシか!まあ遊び道具が輪ゴムじゃないだけマシかも知れないけど。いや大して違わないな。いやいやむしろおもちゃでも無い輪ゴムで遊べるヒロシの方がクリエイティブかも知れない。少し落ち込む。
しかしそわそわして落ち着かないのだ。この気持ちは何かに似ている。何に似ているのか良くは解らないが、確かに何かに似ている。ここのところずっとこんなふうなのだ。この気持ちは一体……。
天使、僕の膝に乗る
(ホントはGIFアニメ作ったんですけど、何故か本文に載せると動かないんですよ。
どなたか解決方法知りませんかね?ファイルサイズもちゃんと合ってるのに……)
そしてついにやって来た、仔犬のボーズくんを迎えに行く当日。その日は朝からとてもいい天気で、僕ははやる気持ちを抑えきれずに午前中からそわそわと立ったり座ったり立ったり座ったり。何だか赤ん坊が生まれるのを待ち焦がれる父親のような気持ちになっていた。 あ。そうだったのだ。ここのところずっとそわそわと落ち着かなかったのはこれだったのだ。
「赤ん坊が生まれるのを待ち焦がれる父親」。落ち着かないわけである。何しろあの仔犬なのだ。何しろ天使なのだ。
そうかあ、僕が父親かあ。何だかさっぱり実感が沸かないなあ(当たり前である)、などと呟きながら鏡を覗き込むとニヤニヤ顔のおっさんがいるじゃないか。わ!びっくりした!何だよ知らないおっさんがニヤニヤ笑って見てるよ!と思ったら自分かよ。笑ってるよ!何笑ってんだよホントに気持ち悪い!
ちょっと待てよ?僕が父親という事はツレが母親か?生んだのか?何かヤだなあ。そんな訳ゃ無いだろ!などとつらつら考えながらもニヤニヤ。
ああいかんいかん。会社で会議の間にもこんな顔をしている瞬間があるやも知れず。気をつけないと。いや多分してるな。他の人が発言してる時なんかもボーズの事考えてるもんな。きっと「俺の意見になんか文句あんのかこいつ」とか思われてるかも。いや絶対思われてる。でもそんなの関係ねぇ!だって天使が家に来るんだよ?どんな事思われたって平気さ。へへん、だ。
その日の午後。車に乗っておばあちゃんの家へと向かう。今回は二度目なので道は解っている。だから三十分ほどで到着してしまった。さすが僕のスーパーマシン「青い流星号」。ガッツ脳に惑わされなければ早いのなんの。
おばあちゃん宅に車を横付けした僕は颯爽と車から降り立った。やや顎を上げ胸を張って、さて、と。仔犬をこの胸に掻き抱き帰路に着くべく……あれ?ツレは?
今回は一挙掲載しようかと思ったけど、やっぱり長いので つづく