「ベッカンコおに」は児童文学作家・劇作家、さねとうあきら氏の原作で、これまで4000回以上も上演されてきた民話風児童劇とのこと。そんな児童劇に琴や太鼓の邦楽、狂言由来の装束を取り入れ、国立能楽堂で狂言師の善竹大二郎さんが「ベッカンコおに」を演じられるという。いったいどんな舞台になるんだろうと、わくわくしながら能楽堂へと急いだ。



結末を明かすのは良くないから、フライヤーにあった「あらすじ」を転載すると・・


まるでアカンベーをしているような顔をした「ベッカンコおに」(ベッカンコはアカンベーのこと)。恐ろしいとは言い難い、その姿とは裏腹に、 誰よりもやさしい心を秘めたおには、 ある日、猟師の娘・ゆきと出会う。 ゆきは生まれながらに目が見えず、 里の子どもたちからいじめられ、 いつもひとりぼっちだった。 おかしな顔のおにと、目が見えないゆき。 孤独を知る二人は、心で互いを見つめ、 少しずつかけがえのない絆を育んでいく。しかし、〈鬼と人〉が結ばれることを、 この世は決して許さない。やがて明かされる、おにの深い愛が、 観る者すべての心を静かに揺さぶる・・・。


この解説通り、私の心も静かに、しかし、とても深く揺さぶられた。物語そのものが感動的だが、ベッカンコおにを演じられた善竹大二郎さんとベッカンコおにが見事に重なり、架空の存在である筈のベッカンコおにが目の前に実在しているかのような感覚になった。そうすると、盲目の娘、ゆきのために孤軍奮闘するベッカンコおにが愛おしくなり、どうかハッピーエンドを迎えて欲しいと祈るような気持ちになった。


劇の最後に、「鬼の中にも人はいる。人の中にも鬼はいる」という歌の後に、「あなたは人か、鬼か」と問われたように記憶するが、「人です」と揺るぎない自信を持って私は答えられないことに気付いた。鬼になりたいときも、せめてベッカンコおにのような優しい鬼になろうと思う。