表紙には「この浮世絵、よく見ると ちょっとヘン!?」と書かれているし、著者の若林 悠さんが記された「はじめに」の冒頭には「江戸の知性を紹介したい」とあるから、いったいこれは何のことやらと興味が湧いた。
鳥羽伏見の戦いで旧幕府軍と維新政府軍の内線が勃発し、自分たちの住む場所が戦場になると考えた江戸の庶民は、表面上は従順さを装いながらも、登場してくる武士やエゴ丸出しの諸藩を極めて冷徹な目で見て非難し、軽蔑し、時には応援したりするようになるが、そういう情報をテレビもラジオも新聞もなかった時代に江戸庶民に提供したのが浮世絵だというのだ。
中でも豊原国周の「善悪鬼人鏡」は、お上を非難することがご法度のこの時代に、対象となる武士や藩を人気の役者に仕立てた上で、思う存分弄ぶという浮世絵を描き、シリーズ化している。感心するのは、役者に仕立ててはいるが、それが誰なのかが分かるヒントを加えていることだが、それが理解できた江戸庶民の知的レベルも相当高いということなのだ。
何でもかんでも言いたい放題が可能な現代とは違い、当時の江戸は危険を侵してでも言いたいことを言うという情熱と知恵があったということか。勉強になった。

