丸紅勤務時代に大変お世話になったお取引先のインド人が亡くなられた。当時の私は商社マンとしては駆け出しで、知識も経験もない上に英語もろくに話せない若造だったが、出張でお邪魔すると朝から晩まで私に付き添い、いろんなことを教えてくださった。
いつしか「インドの父」と呼ぶようになったが、今も印象に残っている言葉がある。「カースト制度」について質問したときの答えだ。「あれは職業制度でもある。両親の仕事を子供が引き継ぐことで、プロフェッショナリズムが脈々と継承される一面もある。生まれながらにして職業や人生が決まるのは不公平だと思うだろうが、それを受け容れることで、平穏な人生を過ごせる人もいる。実際、思うような職業に就けなくて落胆、憤慨し、自殺するのは大学を出た青年だ」。
又、大通りに座り込んでいる貧しい人たちを指して、「君は彼らを気の毒に思うかも知れないが、彼らは仮に政変があっても生きていけるが、私は全てを失う可能性がある。だから毎日、何ができるかを考え、働いているんだ」。
インドと日本ではあまりにも環境が異なるし、当時はストンと落ちるほどの理解ができなかったが、その後、私にも守るべきものが少しはできて、インドの父が悩んでいたことが少しは分かるようになった。今頃、天国で「遅い!」と笑っているかな。
合掌。

