田村麻子さんが海外デビュー20周年を記念するリサイタルを催された。国立音大の声楽科、東京芸大大学院で学ばれた後、米国マネス音楽院に進まれ首席で卒業、世界的なコンクールで上位入選を果たし、欧米各地の歌劇場では主役を張り、米国メジャーリーグの試合では外国人として初めて国歌斉唱までされている。


そんなご経歴から、順風満帆の人生を送って来られたものと思っていたが、実際にはさまざまなご苦労があったらしい。それが分かったのは、第一部で田村さんの人生に大きな意味や転機を与えることになった7曲の歌を披露され、それぞれの歌に込められた思いや、その後の人生に及ぼした影響などを話されたからだ。

例えば、ブダペストで開かれていたコンクールの本選前夜に、大好きだったお祖父さまが亡くなられたという連絡を受け、お祖父さまが好きだったという「浜辺の歌」を歌い、一人、お祖父さまのことを偲ばれる。そして、翌日の本選に臨まれるが、実に不思議なことが起こり、カッチーニの「アヴェマリア」を自分の理想通りに歌っている歌手がいると聞き惚れていたら、何とそれは自分の歌声だったのだとか。ステージでは時にそういう不思議なことが起こるらしい。

コンクールでは聴衆のスタンディングオベーションを受け、又、審査員からは高い評価を獲得されるが、アジア人であるが故に全く仕事が来ないという辛い思いをされている。しかし、それをきっかけに、西洋音楽から日本やアジア音楽にも目を向けるようになり、結果として新しい境地を切り開いておられるから立派だ。

どの歌も素晴らしかったが、「浜辺の歌」、「アヴェマリア」、そして黄自作曲「メイグイサンユアン(バラの三つの願い)」に胸の締め付けられる思いがした。

(続く)