オフィスが入っているビルのエレベーターに乗り、13階から1階に降りるときのこと。11階でエレベーターが止まり、一人の紳士が乗り込んで来られた。仕事納めの挨拶に来ておられたのだろう、その方を見送るもう一人の紳士が「わざわざ有難うございました」とエレベーターホールから頭を下げられた。
それを見たエレベーターの紳士が「こちらこそ有難うございました。良いお年をお迎え下さい」と返された。その間、人の良い私は「開」ボタンを押してお二人の挨拶を聞いていたのだが、礼儀正しい大人は良いものだな、としみじみ思っていたのだ。
エレベーターが1階に到着し、「開」ボタンを押せる隅っこに立っていた私は先に紳士に降りて頂こうと「開」ボタンを押して紳士に目をやった。私の予定では、紳士は私を見て「有難うございます」と言うか、又は黙礼して先にエレベーターから降りる筈だった。それくらいのことは若い男女でもするから、ひょっとすると私に先に降りろくらいのことまでするかな、と私は考えた。
ところが、「開」ボタンを押している私に声を掛けたり黙礼したりすることなく、そのオジサンは(礼儀知らずの大人は紳士ではなくオジサンです・笑)サッサとエレベーターから出て行った。その姿はつい先程11階で見た礼儀正しく優雅な紳士とは全く別物で、あ、なるほど、これがオジサンの性格で、先程の姿は技術だったんだと理解した。
新入社員の頃、上司とタクシーに乗り、先に上司が降りた後、タクシーの運転手さんとお喋りしたことがあった。何を話したのかは忘れたが、降りるとき、運転手さんから「あなたは若いけれど、良い人ですね」と言われた。「えっ?どうしてですか?」と尋ねると、「先程一緒だった人にも私にも同じように敬語で話されたから」と言われた。
私は技術ではなく、性格できちんとお辞儀ができる大人になろうと思う。