田村麻子さんは華麗な経歴をお持ちのオペラ歌手だ。たまたま、お母様が同志社大学の先輩で、「ちょっと面白いコンサートがあるわよ」と教えられ、チケットを購入した。「嘘つきはオペラの始まり」、なるほど、面白そうだ。

 

 

 
第一部はロッシーニの「フィレンツェの花売り娘」やカッチーニの「アヴェ・マリア」などオペラの名曲を歌われたが、演奏の前に、それぞれの曲に秘められた「嘘」につき説明や解説があった。
 
例えば「フィレンツェの花売り娘」は病気の母を救いたいと歌うが、これはどう考えても花を売るための方便だろうとか、カッチーニの作品だとされる「アヴェ・マリア」は、実は1970年頃にソ連のヴァヴィロフという音楽家により作曲されたものだとか、実に興味深く意外な話が次々に出てきた。予期せぬ話に驚かされたが、反面、オペラにもそういう人間臭い物語があるのだと分かり、少し敷居の高かったオペラが身近なものに感じられたように思う。まさに、私には効果的な企画だったと言える。
 
さて、田村麻子さんの歌声だが、伸びやかで張りのある歌声が会場に響き渡り、先ずその声量に圧倒された。次に、音の強弱やリズムの取り方、歌われるときの姿勢や表情に変化があり、言葉の意味は分からないし、曲の背景にある物語も知らないけれど、様々な感情が伝わって来たように思う。
 
第2部は、意外にも日本の歌、「朧月夜」から始まった。華麗な経歴を持つ田村麻子さんだが、アメリカ留学中は忍耐の日々が続き、日本人であることのハンディキャップを感じさせられることもあったとのこと。そんな環境から大好きだった日本の歌も封印した時期があったらしい。「朧月夜」に続き、「シャボン玉」も歌われたが、特に「朧月夜」は情感たっぷりで、この歌を入浴中に気持ち良く歌っていた親父のことも 思い出し、ちょっ泣いてしまった。
 
面白い趣向だと思ったのは、オペラ歌手がマイクを持って歌うとどうなるかという前置きの後に披露された「ムーンリヴァー」だ。歌声が軽やかに、そして滑らかになり、5000ccクラスの高級車が春風の中を時速30キロで悠然と走る、というような余裕と優雅さを感じた。
 
楽しいコンサートだった。田村麻子さんのお母様は嘘つきではなかったようだ(笑)