本を読む前に中澤きみ子さんのCDを聴いてみた。解説に、ヴィオッティとダ・ヴィンチはストラディヴァリ黄金期の作品でヴィオッティ(1704年)は甘い音色が、ダ・ヴィンチ(1714年)は豊かで輝かしい音色が特徴、ハンマ(1717年)は円熟期の作品で力強い音色が、そしてロマノフ(1731年)は晩年期の作品で優しい音色が特徴と書かれてある。

 

正にその通りに聞こえるのは、各々のストラディヴァリウスの特徴が生かせる選曲と中澤きみ子さんの技巧があってのことだろう。私の鈍感な耳では「あぁ、これこそストラディバリウスだ!」という違いが分からない。それより、私のバイオリンを先生が弾かれるととても綺麗な音がすることは良く分かる。これはショックで、私のバイオリンに申し訳ないと思った(笑)

 

犬に血統書があるように、ストラディヴァリウスのような名器と言われるバイオリンには来歴が記された鑑定書が付いているそうだ。ただ、それが本当に由緒正しい作品なのか、又はそう見えるよう精巧に偽装されたものなのかは分からないそうだ。だから、鑑定書の書き出しも「In my opinion」(私が見るところ)で始まるとのこと、印象的な話だった。

 

著者の中澤さんご自身も、裁判所から「1900年にクレモナで作られたというラベルが貼ってあるバイオリン」の鑑定依頼を受けるが、「実に良く出来てはいるが、ニスが当時のものにしては新しすぎる」と思われたとのこと。更に見ていくと「どうも変だ」と感じ始め、渦巻きの部分(バイオリンの先端部)を見てビックリ仰天されたとのこと。何とそのバイオリンは中澤さんが1982年、バイオリン製作の技術指導で北京に行かれた際に自ら作られた作品だったのだ。渦巻きには特に作者の個性や癖が良く表れるらしい。中澤さんはご自分の作品と思わぬ場所で劇的な再会を果たされた訳だ。

 

ストラディヴァリは1737年に没しているが、ストラディヴァリウスはその後も現役で活躍し、高額な価格で売買されたり、たまには怪しい偽造品が出現したりもしているのだろう。そう考えると、バイオリンそのものに親しみはなくても、歴史に残る芸術作品とそれを巡る人間模様の物語として読むことの出来る面白い本だと思う。