酒井さんは大阪のお生まれだが、幼い頃にお父さんが事業に失敗され、その後、東京に出ておられる。しかし、勉強には身が入らなかったようで、太平洋戦争が始まると予科練に志願され、特攻隊の出撃基地があった鹿屋で終戦を迎えられる。

終戦後は職を転々とされるが上手くいかず、大阪のご親戚がやっておられた鉄工所で働き始められるが、たまたま訪ねて来られた弟さんを比叡山に案内されたとき、千日回峰行の中で最も厳しいと言われる、9日間不眠不臥、断食断水を行なう「堂入り」の行から出てこられた宮本一乗さんという阿闍梨を目撃される。その時の模様をこう語っておられる。

「僕は思わず立ちすくみ、その行者の姿を固唾を飲んで見守った。世の中にはこんなことがあるのか、こんな世界があるのか、と大きな衝撃を受けた。山を下りてからも、その行者の姿が心に焼き付いて離れない。世の中には、ただひたすらに行に打ち込む人生がある。翻って自分はどうだ。ただふらふら生きているだけじゃないか。」

それから酒井さんは自分の生き方に疑問を持ち始め、「考えて、考えて、考えた」とおっしゃっている。「圧倒的な何か、思わずひれ伏してしまうようなできごととの出会いも、出会いに違いない。そういう瞬間が、必ずあるもんだな」。酒井さんはそう結んでおられるが、人との出会いや、できごととの出会いが、自分でも気付いていなかったものを引き出してくれるということだろう。

私にもさまざまな出会いがあり、私が持っていたものをずいぶん引き出して頂いたように思うし、ひょっとすると、これからも未だそういう出会いがあるかも知れない。もしそうなら、その時それが出会いだと分かるよう、謙虚でいなければいけないと思う。

紅葉
(久し振りの代々木公園で見た紅葉)