丸紅ラグビー部でFWコーチをさせてもらったことがある。30代半ばだったから、20年も前のことだ。ヘッドコーチは早稲田のOBで、勝利へのこだわりが強く、選手たちには能力だけではなく、ラグビーに真摯に取組むことを求めた。こう書くとカッコ良い人に思えるが、お酒が入ると大いに乱れ、それはそれは愉快な人になった。

一般的に、お酒飲みはいつまでも素面な下戸を嫌うと聞くが、この先輩は下戸の私を嫌わなかった。嫌わないどころか、私が一緒だと安心して深酒したようにさえ思えてくる。何度か酔っ払った先輩をご自宅までタクシーでお送りしたことがあるが、冷静沈着に対応した能力が評価され、「一級酔っ払い介護士」に認定頂いた。もちろん、何の役にも立たないが(笑)

先輩とはラグビーだけではなく、仕事や人生の話もしたが、今も記憶に残っている会話がある。

ボル 「現役を引退して太りました」
先輩 「あほ、身体を鍛えておかなアカンやろ」
ボル 「なんでですか?もうラグビーは無理でしょ」
先輩 「お前には娘がいる」

いきなり娘の話になって面食らう私に先輩が続ける。

ボル 「いますけど、まだ幼稚園の年長組ですよ」
先輩 「俺にも娘がいる」
ボル 「知ってますよ。一緒に信州行きましたやん」
先輩 「娘が変な男を連れて帰ってきたらどないするねん」

思わず笑いそうになったが、先輩は真面目な表情で話を続ける。

先輩 「そういう時は一発、殴ったらなアカンのや」
ボル 「殴るって、相手の男をですか?」
先輩 「せや、俺らにできるのはな、一発、殴ることくらいや」
ボル 「ふ~ん・・・」

なにしろ、娘がまだ年長組の頃の話で、男と言われてもピンと来なかったのだが、なぜかこの会話だけは深く印象に残った。その後、娘たちが成長し、実際に相手の男性と会うことになった。その時、この会話を思い出し、初めて理解できたように思う。ストンと落ちたという感じだろうか。

父親は娘のボディガードのつもりなのだ。息子を持ったことがないから分からないが、これが息子なら、ボディガードというより共に敵と戦う同志のような気持ちになるのではと思うが、娘の場合は年長組であろうが中学生であろうが、命を懸けて守らねばならない対象なのだと思う。

ところが、娘が成人する頃には体力も落ちている。戦うとなれば、どう考えても相手の男性が有利だし、そもそも、成人した娘が今更父親の言うことを聞く訳もないから、既に勝負は決しているのだ。しかし、それでも守らねばならない。どうすれば良いのか。何ができるのか。その先の、究極の選択が「一発殴る」なのだ。もし、父親の予感が当たり、相手の男性がどうしようもない奴なら、こうして戦うんだよ、という身体を張っての教えになるのだろう。

先輩、しばらくお目に掛かっていませんが、お元気ですか? お嬢さんの彼氏とは会われましたか? まさか、一発殴ったりはされてないでしょうね? 私の方ですか? はい、会って早々に自ら武装解除しました(^O^)/