小学生の徒競走は「ヨーイ、ドン」で走り出すが、この映画にも「ヨーイ、ドン」があり、ある場面で私は泣く準備に入り、その後の別の場面で泣き始めた。詳しく話すとネタばれになってしまうが、これはアーサー、マリオンという長年連れ添った夫婦の物語で、原題は "Song for Marion" だから「マリオンのための歌」になる。
ストーリーはシンプルだ。頑固な亭主アーサーは、心優しく社交的なマリオンを通して社会とも一人息子とも辛うじてつながっている。そんなアーサーだが、マリオンのことは大好きで、マリオンもそういう無骨だが一途なアーサーのことを愛している。
ところが、マリオンが病に倒れてしまい、アーサーは一人息子とも、そしてマリオンが所属している合唱団の人たちとも直接接する機会が増えてくる。さて、アーサーはどうなるのか・・・。
「ヨーイ、ドン」の前に「位置に着いて」があるのだとすると、アーサーとマリオンのやり取りを見ているだけで心がポカポカしてきて、いつの間にか「位置に着いて」しまっている。そして、それを見計らったかのようにマリオンが歌う。これが「ヨーイ、ドン」の「ヨーイ」になるのだが、シンディ・ローパーの「True Colours」をアーサーに語りかけるように歌う。「あなたの色が見える。だから貴方が好きなの。怖がらないで貴方の色を見せれば良いの」という歌詞に私の泣く準備は完了する(笑)
そして、アーサーがマリオンのために歌う場面で目から涙が溢れ出た。「ヨーイ、ドン」の「ドン」だ。ビリー・ジョエルの「Lullaby (Goodnight My Angel)」という曲だが、歌詞の内容とか歌の上手い下手の問題ではなく、アーサーには有無を言わさぬ力強さと、人々を包み込む優しさがあった。それが舞台に立っているアーサーから伝わってきたのだ。これこそ、マリオンが愛していたアーサーの色だったのか。そして、Lullaby(子守唄)の優しい歌詞や心に染み入るようなアーサーの声が心を揺さぶり、更に涙が溢れ出る・・・。
人は誰かを愛していること、誰かから愛されていることを確信すると、自分でも気付くことのなかった大きな力が目覚めるのかも知れない。
