お得意様の展示会にお邪魔した。
玄関を入ったところにガラスのショーケースが置かれ、一足の靴が展示されていた。何人かの訪問客が回りを取り囲んでいるが、なぜか神妙な顔付きをされている。いったい何ごとかと私も覗き込んだ。
お得意様が製造された靴には違いないが、ひどい汚れ方をしている。と、その横に置いてある説明文のタイトルが目に入った。
「9.11 NEW YORK WTC 命を守ったリーガル」
この靴は9.11に遭遇された井上さんという銀行マンが履いておられた靴なのだ。井上さんはツインタワーの北棟90階のオフィスでミーティングをされているとき大爆発に遭い、身体ごと天井に突き上げられた後、爆発の衝撃で破壊された天井パネルやガラスの破片と一緒にフロアに叩きつけられたという。
その後、同僚とともに脱出を決意された井上さんは、粉塵で霞む非常階段を下へ下へと向かわれたが、途中、
消火用の水が滝のように流れる中、靴が脱げてしまった人や、ガラスや金属片がスニーカーの底を突き破ってしまった人たちが足を血だらけにして座り込んでいるのを目撃される。
その井上さんは、「この靴はとうとう一度も脱げることなく、足を無傷で守ってくれた。命を助けたもらいました」と語られたという。
靴はお洒落の重要アイテムだが、それ以前に、身体を支える足の防具でもあったということか。歩けなくなった方々は無念であったと思う。
合掌。
