懐かしい作文が出てきた。

今はすっかり少なくなってしまった銭湯・・・その銭湯組合が募集していた作文だ。

9年前の応募作。残念ながら落選(笑)


タイトルは「いちご牛乳」


未だ父が元気で、間もなく母の三回忌を迎えようという初夏のことだった。仕事の都合で母の三回忌に出られない私は、その一週間前に墓参りをし、掃除を担当することとなった。妻と共に東京を車で出発、午後4時ごろには滋賀県にあるお墓に到着し、早速掃除を始めたのだが、炎天下の作業と襲い掛かってくる蚊との格闘でへとへとになってしまった。


「ねぇ、銭湯に行って汗を流さへん?」

僕の提案が余程嬉しかったのか、妻が初めて笑顔を見せ、私たちは交番のお巡りさんが教えてくれた隣町の銭湯へと向かった。探すこと20分、古い木造の佇まいの銭湯、天に伸びる白い煙突が目の前に現われ、その懐かしい風景に心が躍った。下駄箱に靴を入れ、「はい、お越しやす」という番台のおばちゃんの声で見事にタイムスリップ、気分はすっかり10才の子供に戻ってしまった。


浴場には湯気が立ち込め、壁を隔てた女湯からは笑い声や話し声、子供を叱る声が聞こえてくる。昔と全く同じ。椅子に腰掛け、その昔、父に教わった通り身体をきれいに洗い、イザ入浴!あ~、この熱さや。子供の頃、熱くてなかなか湯船に入れないのを親父がニヤニヤ笑って見ていたなぁ・・・・。


身も心もさっぱりしたところで風呂を出る。大きな体重計も懐かしかったが、ついに、僕は最も懐かしく嬉しいものを見つけた。「いちご牛乳」だ。子供の頃、どんな味がするんだろうという好奇心の対象だった瓶入りのいちご牛乳。しかし、どうしても父に「飲みたい」の一言が言えなかったのだ。しかし、今日は飲める。僕は今やオトナなのだ。震える手で蓋を開け、一気に飲み干す。「うまい!」・・・・そのとき、何となく母の笑い声を聞いた気がした。