中国銀行人民元定期預金。光としてのリターン、影としてのリスク
今から約5年前の
2011年7月から2012年6月まで
人民元の預金金利は
2008年の世界同時株安以来
もっとも高い水準にあった。
中国本土の中国銀行で
定期預金を組むと1年定期で3.50%、
3年定期5.00%、5年定期で5.50%だった。
5年定期を組めば満期までに
27.5%の金利を得ることができた。
同時に当時は
1米ドル=76円から82円程度を行き来する
歴史上最高水準の円高の時期だった。
日本円と人民元の
為替レートにすると
1元=12円から13円だった。
現在の人民元の
定期預金金利は1年定期で1.75%、
3年定期及び5年定期で2.75%である。
5年定期は3年定期に
統合されてしまって今はもうない。
そして日本円、人民元の
為替レートは現在1元=約16円(※1)である。
※1:2017年4月上旬のレート
なぜ金利が
高かったのかというと
当時中国国内ではインフレが
急速に進んでいたからである。
中国の中央銀行である
中国人民銀行は物価の上昇を抑えるために
段階的に政策金利を引き上げていた。
上述の金利に至るまでは
2ヶ月に一度金利が上っていた記憶がある。
預金金利が高くても
目の前の物価がどんどん上がっている状況では
人は一刻も早くお金を使おうとする。
自分の欲しい商品が
近い将来値上がりするなら
今買っておいた方が良いからだ。
皆がそう思って
どんどん買い物をするわけだから、
需要と供給の関係で商品の価格は
どんどん高くなってゆく。
多少のインフレは景気に良い効果があるが
行き過ぎると庶民、特に低所得者層の生活は苦しくなる。
中国は貧富の差が激しいので
物価が急激に高くなると貧困層は
食べ物さえも手に入れるのが困難になってしまう。
さすがに多くの人が
食べられない状態になると犯罪が増えたり、
暴動が起きたりするのでインフレは
ある程度のところで抑えなければならない。
だから中国人民銀行は
金利を引き上げていたのである。
物価の上昇率よりも
定期預金の金利の方が
高ければ預金する人も増えるし、
何よりお金を借りて投資したり
買い物したりする人が減るので
物価上昇が落ち着くのである。
中国で暮らしていると
年利が3.75%(名目金利)あっても、
おそらく1年に2%以上は物価が上がるので
差し引きでは1%ちょっとぐらいの
金利収入(実質金利)となる。
なので中国国内の中で
暮らしている人にとっては
金利が上ってもそれほど有利なわけではない。
しかし海外に住んでいる人にとっては別の話である。
中国で暮らしているのでなければ
物価上昇により家計が悪影響を受けることはない。
つまり名目金利の
3.5%を丸々受け取れるのだ。
要するにあの当時
海外在住の投資家は中国の高金利に
いわばタダ乗りできたということになる。
オイシイところだけを
持って行かれた形になる
中国の人にしてみれば
面白くない話かもしれない。
が、いずれにしても
取れる利益をきちんと取りに行くのは
投資家としては正しい行動である。
しかも定期預金という
もっとも安全といっても過言ではない
スキームであればなおさらだ。
一方でこの人民元定期預金は
まったくリスクや手間がないのかといえば
もちろんそうではない。
以前に較べれば
IMFの特別引き出し権(SDR)の構成通貨になるなど
国際的なプレゼンスが高まっている人民元だが、
中国という一党独裁国家が発行している通貨であり
将来におけるその信用度合いは未知数なところがある、
またその取り扱いにも一定の制限がある。
まず人民元から外貨への両替に制限がある。
中国国籍を持つ人は
年間50,000米ドル相当までの
人民元を外貨に替えることができるが、
外国人は銀行窓口において
1日当たりUSD150相当しか両替ができない。
中国国内から
人民元や他の通貨を持ち込み、
持ち出しする際にも制限がある。
人民元は一人当たり1日20,000元、
外貨の場合は一人当たり
1日USD5,000米ドル相当である。
一方で中国銀行の
普通預金口座に置いてある資金は海外でも
「UnionPay(銀聯)」
に加盟しているATMから
一日当たり10,000元(※2)
一年あたり100,000元まで
出金することができる。
※2:中国銀行側の出金限度額は10,000元だが
国内のATMにて別の出金制限を設けていて
一度に10,000元分を引き出せないこともある
またUnionPay(銀聯)のATMカードは
それに加盟している小売店で
デビットカードとして買い物が可能。
その場合は普通預金口座内の
預金額が使用限度となっている。
例えば5年前に
100,000元の5年定期預金を組んだら
満期には127,500元になっているが、
それを解約して日本に引き揚げる場合
当日は20,000元だけ中国から持ち帰り、
残りの107,500元は日本か他の国の
UnionPay(銀聯)のATMから引き出すことになる。
一年当たりの
出金限度額は100,000元なので
一年以内に引き出す場合はATMに通って何回かに分けて出金し、
残りの金額は年間限度額外になるので
出金を翌年に持ち越すか買い物で使ってしまうというかたちになる。
また最近では
中国の経済状況が良くないこと、
人民元の為替が下落傾向にあることから
特に中国人富裕層を中心に資金を海外に逃避させる
キャピタルフライトが問題化しており
中国政府が懸念を強めている。
そのため今後一層
海外持ち出しの制限が
強まるかもしれないということも
リスクのひとつに数えられるだろう。
資産分散として
人民元のまま中国に
置いておこうという人は良いが、
満期を迎えて資金の引き揚げを考えている場合は
速やかに行動することを
視野に入れたほうが良いかもしれない。
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2011年7月から2012年6月まで
人民元の預金金利は
2008年の世界同時株安以来
もっとも高い水準にあった。
中国本土の中国銀行で
定期預金を組むと1年定期で3.50%、
3年定期5.00%、5年定期で5.50%だった。
5年定期を組めば満期までに
27.5%の金利を得ることができた。
同時に当時は
1米ドル=76円から82円程度を行き来する
歴史上最高水準の円高の時期だった。
日本円と人民元の
為替レートにすると
1元=12円から13円だった。
現在の人民元の
定期預金金利は1年定期で1.75%、
3年定期及び5年定期で2.75%である。
5年定期は3年定期に
統合されてしまって今はもうない。
そして日本円、人民元の
為替レートは現在1元=約16円(※1)である。
※1:2017年4月上旬のレート
なぜ金利が
高かったのかというと
当時中国国内ではインフレが
急速に進んでいたからである。
中国の中央銀行である
中国人民銀行は物価の上昇を抑えるために
段階的に政策金利を引き上げていた。
上述の金利に至るまでは
2ヶ月に一度金利が上っていた記憶がある。
預金金利が高くても
目の前の物価がどんどん上がっている状況では
人は一刻も早くお金を使おうとする。
自分の欲しい商品が
近い将来値上がりするなら
今買っておいた方が良いからだ。
皆がそう思って
どんどん買い物をするわけだから、
需要と供給の関係で商品の価格は
どんどん高くなってゆく。
多少のインフレは景気に良い効果があるが
行き過ぎると庶民、特に低所得者層の生活は苦しくなる。
中国は貧富の差が激しいので
物価が急激に高くなると貧困層は
食べ物さえも手に入れるのが困難になってしまう。
さすがに多くの人が
食べられない状態になると犯罪が増えたり、
暴動が起きたりするのでインフレは
ある程度のところで抑えなければならない。
だから中国人民銀行は
金利を引き上げていたのである。
物価の上昇率よりも
定期預金の金利の方が
高ければ預金する人も増えるし、
何よりお金を借りて投資したり
買い物したりする人が減るので
物価上昇が落ち着くのである。
中国で暮らしていると
年利が3.75%(名目金利)あっても、
おそらく1年に2%以上は物価が上がるので
差し引きでは1%ちょっとぐらいの
金利収入(実質金利)となる。
なので中国国内の中で
暮らしている人にとっては
金利が上ってもそれほど有利なわけではない。
しかし海外に住んでいる人にとっては別の話である。
中国で暮らしているのでなければ
物価上昇により家計が悪影響を受けることはない。
つまり名目金利の
3.5%を丸々受け取れるのだ。
要するにあの当時
海外在住の投資家は中国の高金利に
いわばタダ乗りできたということになる。
オイシイところだけを
持って行かれた形になる
中国の人にしてみれば
面白くない話かもしれない。
が、いずれにしても
取れる利益をきちんと取りに行くのは
投資家としては正しい行動である。
しかも定期預金という
もっとも安全といっても過言ではない
スキームであればなおさらだ。
一方でこの人民元定期預金は
まったくリスクや手間がないのかといえば
もちろんそうではない。
以前に較べれば
IMFの特別引き出し権(SDR)の構成通貨になるなど
国際的なプレゼンスが高まっている人民元だが、
中国という一党独裁国家が発行している通貨であり
将来におけるその信用度合いは未知数なところがある、
またその取り扱いにも一定の制限がある。
まず人民元から外貨への両替に制限がある。
中国国籍を持つ人は
年間50,000米ドル相当までの
人民元を外貨に替えることができるが、
外国人は銀行窓口において
1日当たりUSD150相当しか両替ができない。
中国国内から
人民元や他の通貨を持ち込み、
持ち出しする際にも制限がある。
人民元は一人当たり1日20,000元、
外貨の場合は一人当たり
1日USD5,000米ドル相当である。
一方で中国銀行の
普通預金口座に置いてある資金は海外でも
「UnionPay(銀聯)」
に加盟しているATMから
一日当たり10,000元(※2)
一年あたり100,000元まで
出金することができる。
※2:中国銀行側の出金限度額は10,000元だが
国内のATMにて別の出金制限を設けていて
一度に10,000元分を引き出せないこともある
またUnionPay(銀聯)のATMカードは
それに加盟している小売店で
デビットカードとして買い物が可能。
その場合は普通預金口座内の
預金額が使用限度となっている。
例えば5年前に
100,000元の5年定期預金を組んだら
満期には127,500元になっているが、
それを解約して日本に引き揚げる場合
当日は20,000元だけ中国から持ち帰り、
残りの107,500元は日本か他の国の
UnionPay(銀聯)のATMから引き出すことになる。
一年当たりの
出金限度額は100,000元なので
一年以内に引き出す場合はATMに通って何回かに分けて出金し、
残りの金額は年間限度額外になるので
出金を翌年に持ち越すか買い物で使ってしまうというかたちになる。
また最近では
中国の経済状況が良くないこと、
人民元の為替が下落傾向にあることから
特に中国人富裕層を中心に資金を海外に逃避させる
キャピタルフライトが問題化しており
中国政府が懸念を強めている。
そのため今後一層
海外持ち出しの制限が
強まるかもしれないということも
リスクのひとつに数えられるだろう。
資産分散として
人民元のまま中国に
置いておこうという人は良いが、
満期を迎えて資金の引き揚げを考えている場合は
速やかに行動することを
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