歩くことは体にいい。それは誰もが知っている。だから毎朝30分、あるいは仕事帰りに一駅分歩いている。雨の日も、疲れている日も、なるべく続けている。スマホの歩数計には1万歩を超える日が増えてきた。それなのに、体重計の数字は変わらない。むしろ少し増えている気さえする。
こういう状況に直面すると、多くの人は「もっと歩かなきゃいけないのかな」と考える。あるいは「やっぱり走らないとダメなのか」と思う。でも本当にそうだろうか。運動量を増やせば、体は変わるのだろうか。
ウォーキングを続けているのに体重が減らない背景には、運動そのものとは別のところに整理すべきポイントがいくつかある。ここではそれを、生活の流れに沿って見ていきたい。
ウォーキングの前後で何を食べているか
朝ウォーキングをする人は、出かける前に何か口にするだろうか。それとも空腹のまま歩き始めるだろうか。帰ってきてから何を食べるだろうか。
運動の前後に口にするものは、意識していないと意外と増えていることがある。運動したから少しくらい食べてもいいだろう、という気持ちが働くのは自然なことだ。朝歩いたあとに、いつもより少し大きめの朝食を摂る。夜歩いて帰ってきたあとに、ビールを一本開ける。こうした小さな追加が、ウォーキングで消費したエネルギーを上回ってしまうことは珍しくない。
30分のウォーキングで消費されるエネルギーは、体重や歩く速度にもよるが、おおむね100キロカロリー前後と言われる。これはおにぎり一個分にも満たない。コンビニで買う小さなパン一つ、缶コーヒー一本とクッキー数枚で、あっという間にその分は埋まる。
ここで問題なのは、食べることが悪いということではない。運動したあとに体が欲するものを口にするのは、むしろ自然な反応だ。ただ、その追加分が無意識になっていると、ウォーキングをしているのに体重が減らない状況が生まれやすい。
歩く前後に何を食べているかを振り返ってみると、意外な発見があるかもしれない。メモをつけるまでもなく、ただ一度、一週間ほど意識して観察してみるだけでも見えてくるものがある。
歩いている時間以外の動きが減っていないか
ウォーキングを始めると、それ以外の時間の動きが減っていることがある。これは意識的なものではなく、体が自然にそうなっていくことが多いようだ。
たとえば、朝30分歩いた日は、なんとなく午前中はデスクから動かない時間が増える。夜歩く予定があるから、日中は座っている時間を長めにとる。エレベーターを使う頻度が増える。階段を避けるようになる。こうした小さな変化が積み重なると、一日を通した活動量はウォーキングを始める前とあまり変わらない、ということが起こり得る。
意識的に運動を増やすと、無意識のうちに他の部分で動きを減らして調整してしまう。そうした傾向を持つ人もいるようだ。
ウォーキングをしている時間だけに目を向けるのではなく、一日全体の動き方を見てみると、何か変化が起きているかもしれない。立つ時間、座る時間、階段を使う回数、家事をしているときの体の使い方。そうした細かいところに、体重が減らない手がかりが隠れていることがある。
歩くペースと体の慣れ
毎日同じコースを、同じペースで歩いていると、体はそれに慣れていく。最初のうちは少し息が上がっていたとしても、数週間、数ヶ月と続けるうちに、同じ負荷では体が反応しなくなっていく。これは体が適応している証拠でもある。
ウォーキングを続けている人の中には、歩きながらスマホを見ている人もいる。音楽を聴きながら、あるいはポッドキャストを聞きながら歩く。それ自体は悪いことではないし、続けるための工夫としてとても有効だ。ただ、そうした状態で歩いていると、体への負荷は思ったほど高くないこともある。
歩く速度、歩幅、腕の振り方、姿勢。これらが変わらないまま同じルートを歩き続けていると、体にとっては「いつもの動作」になる。日常生活の延長のような負荷になってしまうと、体重が減りにくくなることがある。
速く歩けばいいということではない。ペースを上げることが目的ではなく、体が「今、負荷がかかっている」と感じる状態をどこかで作れているかどうか、という話だ。同じ30分でも、少しだけ歩幅を広げてみる日があってもいいし、坂道のあるコースに変えてみる日があってもいい。いつもと違う刺激が体に入ると、反応が変わることがある。
ただしここで注意したいのは、無理に負荷を上げ続ける必要はないということだ。ウォーキングは続けやすいからこそ価値がある。続けられる範囲で、たまに少し変化をつけてみる。そのくらいの気持ちでいいのかもしれない。
睡眠時間と体重の関係
ウォーキングを続けているのに体重が減らない背景に、睡眠不足が関わっていることがある。これは意外に見落とされやすい。
睡眠時間が短いと、食欲に関わるホルモンのバランスが崩れやすくなるという報告がある。空腹を感じやすくなったり、甘いものや高カロリーなものを欲しやすくなったりする。朝早く起きてウォーキングをしているけれど、その分夜更かしをしていたり、睡眠時間が削られていたりすると、日中の食事量が知らず知らずのうちに増えていることがある。
また、睡眠不足の状態では体が疲れを感じやすく、日中の活動量が自然と減ることもある。ウォーキングはしているけれど、それ以外の時間は座っている時間が長くなる。立ち仕事の合間に座る回数が増える。こうした変化が積み重なると、一日を通したエネルギー消費は思ったほど増えていない、ということになる。
ウォーキングを続けているのに体重が減らないとき、運動のやり方や食事内容にばかり目が向きがちだが、睡眠時間がどうなっているかを一度確認してみるのも一つの手だ。夜何時に寝て、朝何時に起きているのか。途中で目が覚めることはないか。朝起きたときに体の疲れが残っていないか。そうしたことを観察してみると、何か気づくことがあるかもしれない。
水分の摂り方
ウォーキング中やその前後に、何を飲んでいるだろうか。水、お茶、スポーツドリンク、ジュース。飲むものによって、摂取するエネルギーが大きく変わる。
スポーツドリンクは汗をかいたあとの水分補給に適しているとされるが、糖分も含まれている。500ミリリットルのペットボトル一本で、100キロカロリー前後になることもある。30分のウォーキングで消費したエネルギーが、飲み物だけで埋まってしまうことがある。
ジュースや缶コーヒー、カフェラテなども同じだ。ウォーキングのあとに喉が渇いて、コンビニで何か買って飲む。それが習慣になっていると、気づかないうちにエネルギーを摂取していることになる。
水やお茶であればエネルギーはほとんどないが、甘い飲み物を選んでいると、それが積み重なる。毎日のことだから、一ヶ月、二ヶ月と続けば影響は小さくない。
飲み物は食べ物と違って、満腹感を得にくい。液体だから、飲んでもあまり食べた感じがしない。それなのにエネルギーはしっかり含まれている。ここに盲点がある。
ウォーキングの前後に何を飲んでいるかを一度振り返ってみると、思わぬ発見があるかもしれない。水筒を持ち歩くようにするだけで、変わることもある。
ストレスと食べ方の変化
ウォーキングを続けている人の中には、ストレス解消のために歩いている人も多い。仕事や人間関係のストレスを発散するために、夜歩く。朝歩くことで気持ちを整える。それ自体はとてもいいことだ。
ただ、ストレスがかかっている状態では、食べ方が変わることがある。無意識のうちに、甘いものや脂っこいもの、しょっぱいものを食べたくなる。仕事で疲れた日の夜、ウォーキングから帰ってきて、ポテトチップスを開けてしまう。チョコレートを食べる。アイスを食べる。こうした行動は、ストレスを和らげるための自然な反応でもある。
ウォーキングをしているから大丈夫だろう、という気持ちもどこかにある。歩いているんだから、これくらいは許されるだろう。そう思って食べる。それが毎日続くと、ウォーキングで消費したエネルギー以上に摂取していることになる。
ここで大切なのは、ストレスで食べることを責めることではない。誰にでもあることだし、それで気持ちが楽になるなら、それはそれで意味がある。ただ、ウォーキングをしているのに体重が減らないとき、ストレスと食べ方の関係を一度見てみると、何か整理できることがあるかもしれない。
ストレスが強いときは、食べること以外の方法で気持ちを落ち着かせる手段を増やしてみるのも一つだ。お風呂にゆっくり入る、好きな音楽を聴く、誰かと話す。選択肢が増えると、食べることに頼る頻度が少し減ることがある。
体重計に乗るタイミング
体重は一日の中で変動する。朝起きたとき、食事のあと、運動のあと、夜寝る前。測るタイミングによって、数百グラム、ときには1キロ以上の差が出ることもある。
ウォーキングを続けているのに体重が減らないと感じている人の中には、測るタイミングがバラバラになっている人もいる。ある日は朝測り、ある日は夜測る。食後に測ったり、ウォーキングの直後に測ったり。こうなると、正確な変化が見えにくくなる。
体重を測るなら、できるだけ同じ条件で測るほうがいい。朝起きてトイレに行ったあと、何も食べる前。あるいは夜お風呂に入る前。タイミングを決めて、毎回同じ条件で測る。そうすると、少しずつ変化が見えてくることがある。
ただし、体重は毎日測ることが目的ではない。測ることで気持ちが落ち込んでしまうなら、測らないほうがいいこともある。体重計の数字だけが全てではない。服のサイズ、体の軽さ、動きやすさ。そうした感覚のほうが、時には大切だったりする。
ウォーキングを続けているのに体重が減らないとき、測り方を見直してみるのも一つの手だ。同じ条件で測っているか、測るタイミングがバラバラになっていないか。そこを整理するだけで、見え方が変わることがある。
筋肉と体重の関係
ウォーキングを続けていると、脚の筋肉が少しずつついてくることがある。筋肉は脂肪よりも重いから、体重計の数字は変わらないか、むしろ少し増えることもある。でも、体の見た目は引き締まっていることがある。
体重が減らないことに焦って、もっと歩かなきゃ、もっと運動しなきゃ、と考えてしまうことがある。でも、体重が変わらないことが必ずしも悪いわけではない。脂肪が減って筋肉がついているなら、それは体にとっていい変化だ。
体重計の数字だけを見ていると、この変化に気づけない。鏡で自分の体を見たとき、以前よりも引き締まって見えることがある。服を着たときのシルエットが変わっていることがある。階段を上るのが楽になっていることがある。こうした変化は、体重計には現れない。
ウォーキングを続けているのに体重が減らないとき、体重以外の変化に目を向けてみるのもいい。体が軽く感じるか、疲れにくくなったか、姿勢が良くなったか。そうした感覚を大切にすると、続けるモチベーションが保ちやすくなる。
食事の時間帯と間隔
ウォーキングをしている時間帯によって、食事のタイミングが変わることがある。朝早く歩くために、朝食を抜くことがある。夜歩くために、夕食が遅くなることがある。こうした食事時間の変化が、体重に影響していることがある。
朝食を抜くと、昼食までの時間が長くなる。空腹の時間が長いと、昼食で一気に食べてしまうことがある。あるいは、午前中に間食が増えることがある。結果として、一日の摂取エネルギーは変わらないか、むしろ増えていることもある。
夕食が遅くなると、寝るまでの時間が短くなる。食べてすぐ寝ると、消化に時間がかかる。体が休まりにくくなる。睡眠の質が下がることもある。そうなると、先ほど触れたように、翌日の食欲や活動量に影響が出る。
食事の間隔が長すぎても、短すぎても、体にとってはストレスになることがある。ウォーキングを続けているのに体重が減らないとき、食事の時間帯や間隔がどうなっているかを見てみるのも一つだ。
無理に食事時間を変える必要はないが、ウォーキングの時間帯を少し調整することで、食事のリズムが整うこともある。生活全体の流れの中で、どこに無理が生じているかを見つけることが大切だ。
目標設定の仕方
ウォーキングを始めるとき、多くの人は「痩せたい」という気持ちで始める。でも、その目標が曖昧だと、続けていても成果が見えにくくなる。
何キロ減らしたいのか。いつまでに減らしたいのか。そうした具体的な数字がないまま歩いていると、いつまで続ければいいのかわからなくなる。体重が減らないとき、目標がないから、続ける意味を見失いやすくなる。
逆に、目標が厳しすぎても続かない。一ヶ月で5キロ減らすとか、毎日必ず1万歩歩くとか。そうした目標は、最初のうちは頑張れるかもしれないが、少しでも達成できない日があると、挫折感を感じやすくなる。
ウォーキングを続けているのに体重が減らないとき、目標設定を見直してみるのもいい。体重を減らすことだけが目標になっていないか。もっと楽に続けられる目標はないか。
たとえば、週に4日歩く、とか。一回20分以上歩く、とか。体重が減らなくても、歩くこと自体を楽しむ、とか。目標の立て方を変えるだけで、気持ちが楽になることがある。
周囲の環境と比較
ウォーキングを始めると、同じように歩いている人が目に入るようになる。公園で走っている人、颯爽と歩いている人。そうした人たちと自分を比べてしまうことがある。
あの人はもっと速く歩いている。あの人はもっと長い距離を歩いている。自分はまだまだだ。そう思ってしまう。でも、他人と比べても意味はない。体の状態も、生活リズムも、目的も、みんな違う。
SNSでウォーキングの記録を見ることもある。毎日1万歩歩いている人、ハーフマラソンに挑戦している人。そうした投稿を見ると、自分も頑張らなきゃと思う。でも、そうした投稿は、その人の一部しか見えていない。見えないところで、どんな工夫をしているか、どんな苦労をしているか、それはわからない。
ウォーキングを続けているのに体重が減らないとき、他人と比べていないか、一度振り返ってみるのもいい。比較することで焦りが生まれると、無理をしてしまうことがある。無理をすると、続かなくなる。
自分のペースで、自分の体に合ったやり方で、続けていく。それが一番大切だ。
継続することの意味
ウォーキングを続けているのに体重が減らないと、続ける意味を見失いそうになることがある。でも、体重が減らないことが、ウォーキングを続けることに意味がないということではない。
歩くことで、体は確実に動いている。心臓が働き、血液が巡り、筋肉が使われている。それは体にとって、とてもいいことだ。体重が減らなくても、歩くことで得られるものはたくさんある。
気分転換になる。ストレスが和らぐ。頭がすっきりする。夜よく眠れるようになる。こうした変化は、体重計には現れない。でも、生活の質を高める上で、とても大切なことだ。
ウォーキングを続けているのに体重が減らないとき、体重だけを見るのではなく、他に得られているものに目を向けてみるのもいい。続けていること自体に価値がある。続けられているということは、それだけ体が動かせているということだ。
体重が減らないからといって、すぐにやめる必要はない。続けながら、少しずつ生活のどこかを見直していく。そうすることで、体重以外の部分にも変化が起きてくる。
まとめ
ウォーキングを続けているのに体重が減らない背景には、運動そのものとは別のところにいくつかのポイントがある。歩く前後の食事、一日全体の活動量、睡眠時間、飲み物、ストレスと食べ方、体重の測り方、筋肉の変化、食事の時間帯、目標設定、他人との比較。こうした要素が複雑に絡み合っている。
大切なのは、どれか一つを極端に変えることではない。生活全体を見渡して、どこに無理があるか、どこに見落としがあるかを整理していくことだ。ウォーキングを続けていること自体に価値がある。その上で、少しずつ調整できるところを見つけていく。
体重が減らないことに焦る必要はない。体は一日や一週間で大きく変わるものではない。続けながら、自分の体と生活に向き合っていく。そうすることで、見えてくるものがある。
米田貴晴