その後、患部を診ていただく。
「大丈夫ですね。放射線治療の後も、それほど色づいていませんし、傷もきれいです」
そうでしょう、そうでしょう。
放射線治療科のS先生お墨付きの予後の良さです。
放射線の副次的効果によるものか、5ヶ月前の手術の術創も、色が本当に薄くなった。今の右胸の回復具合は、K先生にもご満足いただける状態であろうと思う。
ゴソゴソと身繕いをして、なんとなく、これで診察はお終い、といった雰囲気になってきたため、今のうちに確認しておきたいことをお尋ねすることにした。
そう、マッサージの件である。
「ところで先生、右側の腕なのですが、今は痛みもなく、無事上がるようにもなりまして、手術前と変わらない状態になったかと思うのですが」
「はい」
「今後、運動とかマッサージとか、何か禁止事項はありますか」
そう問うと、先生はひとつ頷いた。
「注射は右側にはしないほうがいいですね。怪我もしないように気をつけてください。そういうきっかけで、腫れ上がることがあります」
なんと…!
いや、センチネルリンパ節生検でもリンパ浮腫の可能性があるという知識はあったのだが、自分もそれに該当する旨、改めて医師から言われると、少しダメージがある。
それに、注射はともかく、利き手に今後一生怪我をしないのは、無理な話ではないだろうか。毎日、何をするにもまずは右手を使うわけだし。
道具を持つのが右手だと考えれば、左手よりは安全なのかしら…?右手のカッターで左手を切る的な?
更に言えば、そう、わたしは今後またいつか犬を飼うつもりでいるのだ。子犬のあの鋭い乳歯…!甘噛み…!傷がつかないわけがない。
…まあ、極力、気をつけるということにしよう。きっと、気にし過ぎもよくない。
でもこれ、わたしから聞かなくても教えてくれたほうがよい情報だったようにも思われる。
知らなければ、うっかり右腕に注射針を刺していたかもしれない。採血がしにくい腕なのか、過去、職場の健康診断では両腕を差し出すことが多かったこと、貧血治療には採血がつきものであることを鑑みると、可能性は高い。
さほど重大な禁止事項というわけではないのかな…。
「運動などの制限は特にはありません」
なるほど。運動はOKと。
それで、あの…。
右腕注射禁止について知ることができて良かったし、確かに運動についても少しだけ知りたかったけれど、今、本当に聞きたいことは、そこではない。
マッサージ。
なぜマッサージには言及してくださらない。マッサージはどうなんですか。
「マッサージも大丈夫ですか。リンパ節を取った人は、あんまりギュウギュウ押したりしないほうがいいと聞いたこともあるのですが、問題ありませんか」
「…なんとも言えないところではありますが、禁止事項ではありませんね」
そう?本当に?行っちゃうよ、マッサージ。
わあ、嬉しいな。
こちらのマッサージへの情熱に、先生が若干引き気味に見えたが、たまには引いてもらってもいいだろう。
それでは、何もなければ、また3ヶ月後によろしくお願いします。
先生とお別れした後、会計でもそれなりの待ち時間があったため、空腹を持て余し、病院の最寄り駅でカレーを食して帰宅した。
美味しいカレーだった。