さて、質問の時間だ。
K先生が気持ちよく答えられるよう、曖昧さを廃した質問を繰り出さなければならない。

まず。
「お風呂は、もう湯船に入っていいですか。手術の傷口のテープはどうしたらよいでしょうか」
術後、ガーゼと透明テープで覆われた傷口はそのままだ。前回に倣えば、そろそろ透明テープは外せそうだし、そうすれば、風呂に浸かることもできるだろう。
「湯船、大丈夫ですよ。傷のテープは、前の時と同じですが、自然に剥がれるまで、そのままにしておいてください。そのほうが傷口が綺麗になりますので」
うーん、前の時に残していたのは、外科テープだけだったような。
「透明なテープとガーゼの部分は剥がしちゃっていいんでしょうか」
重ねてそう問うと、先生は怪訝な顔をした。
「…あれ?退院されてから、初めてでしたっけ。退院から今日まで、僕、傷の確認していませんか」
「はい、退院後、初めてです」
「…失礼しました。病理結果が出て、お会いしてご説明したつもりになっていたみたいです。傷口診ますね」
「お願いします」

なんだか微妙に噛み合わなかったのは、そういう勘違いゆえだったのか。
先生でも、記憶が混乱することがあるんだな。

そのまま、先生は、ペリペリと透明テープとガーゼを剥がして、脇の傷口を診てくださった。
特に問題なし。
残った外科テープは、先程の指示通り、自然に剥がれるまで放置である。

では、次の質問。
「放射線はS病院ですることになるわけですが、そうすると、主治医がいったんS病院の先生になるという認識で間違いないですか」
「そうなります。紹介状を書いてありますので、外科の受付で受け取ってください。その後は地域連携室で、S病院の予約を取っていただきます」
なるほど。

次。
「ということは、今、仕事は病気休暇中ですが、職場に提出する診断書は、今回の手術に関わる期間はK先生、放射線治療の期間はS病院の放射線科の先生に書いていただくと」
「そうですね。放射線治療が始まるまでの期間は、申し込んでくだされば僕のほうで出します」
「わかりました。放射線治療の日取りが決まりましたら、お願いすると思います」
やはりそうなるか。
文書料も馬鹿にならないし、あちらとこちらに申し込んだり受け取りに来たり、面倒極まりないが、しかたない。

最後。
「ということは、次に先生にお会いするのは、ホルモン剤がなくなる3ヶ月後ですね」
「はい。今後は3ヶ月に一度、最低5年間、外来にお越しいただくことになりますね」
「承知しました」

ここ3ヶ月、かなりの頻度で顔を合わせていたK先生とも、いったんお別れか。
なかなか感慨深い。
初対面の時はどうなるかと思ったが、最近はかなりスムーズに会話ができるようになってきたと思う。主にわたしの努力で。
しかし、他の同病の方の記録で時たま目にするような、心の支え、出会えて良かった唯一無二の医師というわけではない。ゆえに、積極的に会いたいわけでもないし、まあいいか。

3ヶ月後の再会を約して、診察室を後にする。

外科受付で紹介状を頂いて、地域連携室でS病院の予約をお願いする。
早ければ明日明後日にでもと思っていたが、予約が取れたのは2週間後で、3月中旬が初診察の日に決まった。

いよいよ、治療は次のステップだ。
放射線、どのように感じるのだろうか。あまり辛さがないといいけれど。

お会計:650円