「終わりましたよ」

どなたかの声で、意識が浮上する。
先生…?
はい、とか、どうも、とか、何かの言葉を発すると、目覚めたと認識されたのか、続いて声がした。

「リンパ節に転移は認められませんでした。生検だけで終わりましたからね」

リンパ節郭清はせずに済んだのか。
2泊3日で帰れるのか。
めでたい。
遺伝子検査に続いて、恐れていたことは免れたようだ。

少し頭がはっきりしてくると、手術前にわたしの城となった個室にいることがわかった。

時間は13時を過ぎたところ。

点滴とモニターは付いている。酸素マスク…は付いていないな。どういう基準で付いたり外れたりするんだろう。
あ、バストバンド巻かれてる。

キョロキョロしていると、夫に声をかけられた。
「あなた、前回より大丈夫そうだね。前回は終わってすぐはずっと寝てたけど」

そう?
そう言えば、起きてるな。元気なのか、わたし。
…いや待て、大丈夫だから寝ていないのではない気がするぞ。すごく眠たいけれど、何かが邪魔を…。何かって…ひょっとして、痛みでは?
これは、痛くて寝れないやつだ!

看護師さん、看護師さん。
「今、痛み止めって入っていますか」
「入っていませんよー」
ほら!ほら!やっぱり痛い。わたし痛い。

「すみません。疲れているけれど、痛くて眠れない感じなんですが…」
「それは良くないですね。鎮痛剤を使いましょうね。それと、ちょっと体温が低いですね。電気毛布を入れておきますね」
冷えた身体は物理的に温めるらしい。

鎮痛剤もすぐに用意してくださり、ぽかぼかで、痛みが和らいでくると、すうっと眠気が来た。
しばらく、うとうとタイムである。

30分置きに何度か看護師さんの訪問を受け、すやすや眠る、を繰り返す。
15時半、そろそろ歩く時間がやってきた。

「ご気分どうですかー」
「だいぶ良いです。鎮痛剤のおかげで、ゆっくり眠れました」
「ちょっと強めの鎮痛剤を使ったんですけど、お痛みが和らいだなら、良かったです」
ちょっと強めだったのか。
おかげさまで、快眠でした。ありがとうございます。

ぎこちなく起き上がり、看護師さんと夫に見守られながら、廊下を往復する。
できそうな気がして、少し早足(当社比)で歩いてみたところ、ベッドに戻る頃に、頭がフラフラしてきた。
まずい、調子に乗りすぎた。
でも、少し休めば大丈夫そう。

水が飲めるのを確認したところで看護師さんはいなくなり、やるべきことも、できることも特になくなった。

「わたしは晩ごはんまで寝るつもりだから、きみ、そろそろ帰ったら」

前回もこんな感じだったろうか。
とにかく疲労感と眠気が半端ない。

せっかく手に入れた個室で安眠を貪ろうと提案すると、夫も疲れていたのだろう、素直に帰って行った。