2023年12月末、退院して一週間目、初回の診察に夫と向かう。

この日は簡易的な病理診断の結果が出るはずである。
もうほぼ癌だと思っているし、そこはよいのだが、今後どのような治療になるのか気になるところだ。

K先生とご対面。
「病理診断結果は、やはり乳がんでした」
ですよね。
「乳がんだろうとお伝えしていても、結果が出るまでは一縷の望みを持っていらっしゃる方がほとんどとは思いますが、確定診断です」
いや、特に一縷の望みとか、そんなことはありませんが…まあ、いいや。どちらにせよ確定である。

「今後ですが、センチネルリンパ節生検と放射線治療は必ずやります。
リンパ節生検は、再び3日くらい入院してもらって、手術をします。全身麻酔で脇を切ってリンパを摘出し、手術中に簡易検査をします。
もしリンパにもがん細胞が見つかったら、リンパ節郭清といって、奥のリンパまでを摘出。リンパ節郭清をした場合は、一週間程度の入院になると思われます。
また、リンパ節生検で転移が見つかれば、抗がん剤もやることになります」

リンパ節郭清と抗がん剤は、やらずに済むとありがたいなあ。
他の方々の経験談を見るに、抗がん剤が一番きつそうに思うが、どうなのだろう。

それでも、今後もレールに乗って、先生のおっしゃる通り、何も考えずに治療を進めていけばよいのかな、と思っていたところ、突如、選択を迫られる問題が出てきた。

「問題は、遺伝子検査をやるかどうかです」

遺伝子検査…?

どうやらわたしは保険適用の遺伝子検査の対象になるようだった。
遺伝学的検査に健康保険が適用されるためには何個か条件があるが、
・乳がんと診断されたこと
・3親等以内に乳がんや卵巣がんを発症した血縁者がいる(母に乳がん既往歴がある)
が当てはまったのだ。

遺伝子検査で陽性の場合は、乳がんと卵巣がんの再発、発症リスクが跳ね上がるらしい。
即ち、
「遺伝子検査で陽性の場合、乳房全摘出を検討することになります。リンパ節生検の手術は必須ですが、全摘を希望されるのであれば、同時に行ったほうが望ましいので、遺伝子検査をやるかどうかを先に決めていただきます」
もし陽性だった場合は、転移の有無に関わらず、全摘が候補に上がってくるということか。
術後、胸が歪んだ程度で終わって良かったなあと呑気にしており、全摘に向けての心構えはまったくなかったので、少し動揺する。

「更に言うと、乳がんはまだいいのですが、卵巣の癌はなってしまうと死亡率が非常に高くなります。遺伝子検査で陽性の場合は、乳がんの治療が終わった後、卵巣の予防的切除というリスク低減手術もご検討いただくことになります」
えー…。卵巣も…というか、卵巣のほうが、よりリスキーなのか。なんとまあ。
先生の口ぶりからすると、乳房は乳がんが見つかってから切っても多分大丈夫だけれど、卵巣は発症前に取っておかないとまずい、という雰囲気だ。更には、どちらも将来的にいつかは切除、といったニュアンスも感じる。

えーと、そうなると。
「もし、完全に予防的切除を希望する場合は、両方の乳房を取って、必要なら再建して、その他乳がんの治療を諸々終えて、更にその後、速やかに卵巣を摘出するということになるわけですか」
「そうなりますね。ここの病院では、両方の乳房を一度に切除することはやっていないので、別々に取るか、同時切除ができる大学病院をご紹介する形になりますが。
ただ、乳房を全摘した場合の放射線治療は不要になります」
ああ、そういう問題もあるわけね。
何回通院して、何回入院して、何回手術することになるんだろう。
いったい完治までどれだけの時間がかかるのか。

そして、遺伝と言うからには、他の家族、妹や姪にも影響があるのだろうか。
「陽性の場合、妹さんも保険適用での遺伝子検査が推奨されます」
なるほど…。
わたしひとりの問題ではない、と。
これは困った。