2023年11月末、CT検査。

この日に来るように、とは言われたが、予約枠はもう空いておらず、朝一番から並んで、予約の隙間で検査をしてもらうと聞いていた。
朝ごはんを抜いているので、お昼前には終わりたいところだ。
朝9時に病院に到着し、放射線科の待合に案内される。

なお、この日の懸念事項は、造影剤の点滴だ。点滴、苦手なんだよな…。針が入っている間、ずっと痛みを感じる気がする。針の挿入はなるべく直前にお願いしたいし、終わったら即抜いてほしい。
待合にいる方々が、順番に呼ばれては点滴の針をセットして戻ってくるのを横目に、ドキドキしながら本を読む。内容が頭に入ってこない。
数時間は待つつもりでいたが、1時間もしないうちに名前を呼ばれた。

「点滴の針、まだですよね?その順番待ちが混んでいるので、外科に行ってルート確保をしてもらってきてください。外科の場所はわかりますか?」
「わかります。行ってきます」

世間では立派な中年だが、待合にいる患者の中では若年層、自分の足でさっさと外科まで行って帰って来られそうだから選ばれたのだろうか。まさかそのルート確保が怖くて今にも倒れそうだなんて思わないだろうし。実際に倒れはしないしな。
などと考えながら、外科の処置室に向かう。

外科の看護師さんは、優しいベテランといった風体の方で、こちらでよかったかもしれない、と思った。痛みを伴う事柄においては、なるべくスムーズに処置してほしいし、なるべく優しくしてほしいのだ。
とりあえず、ここでも恐怖に震えていることを打ち明ける。
「嫌ですよねー。わたしだって、される側は嫌ですもの。好きな人なんていませんよ!」
ですよね。
「チクッとしますよー。採血の針より少し太いので、少し痛いかもしれませんね。大丈夫ですか?」
なんとか大丈夫です。

慰められ励まされながら、ルート確保は完了した。
変な刺激を与えて無用な痛みを引き起こさないよう、慎重に歩を進めて放射線科に戻る。
さほど待たずに、CTの順番になった。

上半身を検査着に着替えるよう指示される。
オーケー、と思ったものの、冬場のことであるから、着用していたのはセーターとヒートテックもどき。さきほど作ったルートが脱ぎ着の邪魔をする。なるべくその部分に袖を当てたくないのに、完全に避けるのは不可能…。先に着替えさせてくれたらよかったのに…。
悲しい気持ちで着替えを終え、いざCTの機械の前に立った。

技師さんは男性だった。
指示通り、細いベッドに仰向けになり、頭上の棒を両手で掴む。
「点滴の針がちゃんと入っているか確認しますね」
という言葉と共に、ルートから何かの液体を少し流されたような気がした。点滴の辺りが一瞬ヒヤッとした。
「途中でお声がけしてから造影剤を流します。体が、かあっと熱くなって、お漏らしをしたような感覚があるかもしれませんが、正常なことですので、慌てず、動かないでください」
それは、ネットで予習したぞ。熱くなるというのは、どのような感覚なのだろう。痛いわけでも苦しいわけでもなく、熱いだけならどんと来い、むしろ興味津々だ。

そうして、CT検査が始まった。

スター・ウォーズのR2-D2のような音を立てて、機械が動く。
なんだか可愛いな、そして少し寒いな、と思いながら、時々聞こえる「息を吸ってー吐いてー止めてー」に従いつつ、ぼんやり天井を見ていると、マイクから技師さんの「造影剤を入れます」という声がした。
そして、数秒。
かあっと体が熱くなった。
おおおう、こういう感じか!悪くはない。嫌いじゃないかも。ちょっと寒かったから、むしろありがたいかも。あ、でも、確かにお漏らしのような感覚ある…。
「体が熱いかもしれませんが、大丈夫ですからね」
あ、はい、わたしは大丈夫です。

しかし、技師さんが何度も、正常です、大丈夫ですと仰るからには、激しく動揺する患者もいるのだろう。予備知識がなければ、どうしちゃったんだろうと思うのだろうな。大人だったら、お漏らししちゃったと勘違いするのも辛いだろう。
やはりぼんやりと天井を見ながら考えているうちに、検査が終わった。

「終わりました。点滴の針を抜きますので、そのまま横になっていてくださいね」
よかった。針が抜いてもらえる。ルートを付けたまま着替えなくてよいのだ。するりと針が抜かれ、テープできつく止血された。テープは5分したら外していいとのこと。

着替えて、会計をして、病院を出たら10時半だった。思ったよりだいぶ早いが、空腹だ。
駅前のマクドナルドで遅い朝ごはんを食べて、帰宅した。
数年ぶりのフィレオフィッシュが美味しかった。

お会計:7,190円