選手コース担当のコーチに促されて、
泣きながらうなだれてプールサイドまでやってくる男の子がいました。
聞いたらいつもは違う曜日に来ていて、ひとりでは更衣室から出てこないらしいです。
ちょうど胃の辺りを両手で押さえていてとても痛そうです。
いつもそうしていると連れて来たコーチが言うので相当プールが苦手だったんでしょう。
まず水深の浅いプールで水の中を走らせてみました。
実は水の中に入るだけで動けない6年生に会ったことがあります。
しかし、彼の場合は走ることが出来ました。
跳んだり跳ねたりもできます。
運動は得意そうに見えました。
それで、彼が出来そうで出来ないゲームをやってみることにしました。
潜らなくても良くて、
でもうまくやらないと水しぶきが顔にかかって、
もしかして失敗すると転んで潜ってしまうかもしれない自己責任ゲームを選びました。
平気でした。
なのに何で泣くんでしょう?
ゲームしながら笑顔も見せています。
潜ることもできました。
でも潜ったらすぐ立ち上がり、潜っていられないと悲しそうに泣き出します。
「いいよ、いいよ、潜らなくて。最初は誰でも出来んとやけん。」
そこで切り上げて深いプールへ移動しました。
私がどんなコーチか、こちらの反応や様子を見ているようでもありました。
この日のこの時間のクラスには横向きに呼吸しながらクロールを泳げるように練習する子ども達と、
顔に水がかかるのも嫌いな子ども達までのレベルが一緒になっています。
ビート板を使って、顔を水の上に出したままキックの練習をするように指示をだしてみました。
簡単に出来るように彼の腰にはヘルパーをつけさせました。
ところが彼は自分で顔を水に浸けて、ブクブクパーしながら泳いできたのです。
「え?泳げるたい?」
と聞いたら、
「息止められん。息止めたら死んでしまう」
と言いました。
あんまり可愛いことを言うからつい笑ってしまいそうになりました。
いや、声を出して笑ってしまったかもしれません。
水に潜らなくてもいいからこのまま息を止めてごらんと言ってもダメでした。
『そうか、そう思い込んでたのか~』
それで、彼の練習を背浮きに変更しました。
運動感覚はとてもいい子だったので水とのバランスがすぐにわかって綺麗な姿勢で浮くことが出来ましたが顔はまだこわばっています。
「息止めとるたい」
と笑いかけました。
その瞬間、彼は目をハッとさせて、頬に少し緊張を残しながら小さな笑みを浮かべました。
その後もいろいろ工夫しながらその日最終的には5カウント水の中に潜っていられるようになり、
それからは曜日を変えて、笑顔でレッスンに通ってくれるようになりました。