好業績と株安、「間尺に合わない株価」の意味は | ブー子のブログ

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 今の日本株相場を見て、何やら「間尺に合わない」と違和感を覚える人も多いのではないか。上場企業の2013年3月期は最終利益が6割増となる見通し。これを受けて予想株価収益率(PER)は11倍に低下した。ところが株価は3月期決算企業の業績発表のさなかから下げ続け、株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回っても止まらない。欧州発の金融危機への不安、米景気の減速懸念など外部環境の悪材料が次々に押し寄せてきたとはいえ、上向きの企業業績が一向に下支えにならない。今の株価が間違っているのか、それとも市場は業績の先行きに何らかの疑念を感じているのだろうか――。




■業績回復しても昨年高値を抜けず

 違和感を持つのは株価指標の面からだけではない。株価水準そのものが不思議といえば不思議ではないか。ファーストリテイリングやファナックなど値がさ株の影響が色濃い日経平均株価ではなく、東証株価指数(TOPIX)の値動きを見るとわかりやすい。

 TOPIXの年初来高値は3月27日の872。今期業績への期待と円高是正などで買われた3月の上げ相場でも、昨年7月に付けた東日本大震災後の戻り高値(874)を上回ることができなかった。18日の終値は725と、リーマン・ショック後に付けたバブル崩壊後の最安値である700(09年3月12日)に急接近中だ。この「業績回復下の株安」は、TOPIX型のインデックス運用をしている機関投資家などにとって、かなり深刻な事態といえる。



 なぜ業績の回復期であるにもかかわらず、株価はバブル崩壊後の安値をうかがう水準まで売られるのだろう。3つの仮説が成り立ちそうだ。

 仮説1 「株価はリーマン・ショックのような世界的な恐慌を織り込み始めている」 ギリシャのユーロ離脱が現実味を持って語られ、スペインでは大手銀行の経営問題が浮上している。欧州発の金融恐慌への警戒感は高まっている。だが、シカゴオプション市場のVIX指数は上昇基調とはいえ24前後で、昨年夏の40台に比べればまだ水準は低い。市場が悲観一色に染まっているわけではなさそうだ。

 BNPパリバ証券の丸山俊チーフストラテジストは「ドイツのメルケル政権は緊縮政策に対する国民の反発やオランド仏大統領の圧力でいずれ強硬姿勢から変化する。向こう2カ月程度のうちにはギリシャ問題の落としどころが見えてくるだろう」という。今のところ市場では、最悪シナリオを回避できると期待する見方の方が優勢だ。

 仮説2 「一時的な需給悪で株価は売られすぎの水準に」 草野グローバルフロンティアの草野豊己代表によると、世界のヘッジファンドは欧州中央銀行の3年物資金の大量供給(LTRO)でいったんリスクオフのモードになった後、米国の景気指標の悪化や欧州の混乱などを見て、「再びユーロ売り・円買いやアジア株買い・日本株売りなどのポジションを積み上げている」という。外部環境を見渡して買い材料がないから、今は短期筋がかさにかかって売れる相場。すでに売られ過ぎの水準にあるという見方は強い。

 何らかのきっかけがあれば、いずれ売り方の買い戻しは始まる。ただし、買い戻し主導の反発では戻りは限定的にならざるを得ず、日経平均が再び1万円台を回復するシナリオは描きにくい。足元ではヘッジファンドの売りよりも、「一部の主力株には過去数十年来の安値という水準で、いまだに指し値の売り注文が出ている方が気にかかる」という市場の声もある。
 
 仮説3 「市場は業績回復局面が短命で終わると懸念している」 2012年3月期の決算発表を終え、市場の関心は来期の業績にも向かっている。今期こそV字回復を達成するとしても、その後も増益基調が続くという展望が見えなければ、長期投資の資金でも買いにくい。今期の業績を前提にすればPERやPBRの面から今の株価が割安に映っても、来期業績をベースにすれば、妥当性があるのかもしれない。

■「経験したことがない相場」

 「決算発表の最中から、これは何かがおかしいと感じていた」。田辺経済研究所の田辺孝則代表はそう話す。先週まで続いた決算発表で、企業が大幅増益や黒字転換の業績見通しを出しても株価は一向に上がらず、それどころか、売られる銘柄が多かったからだ。長年、株式市場を見てきた田辺氏にとっても過去にない経験で、外部環境の悪化だけでは説明がつかないという。

 「結局は業績回復の持続力が危ういのではないか」。それが田辺氏の出した結論だ。理由は2つあるという。

 まず、日本企業の競争力の低下だ。米欧の巨大企業とアジアの新興企業のはざまで、日本企業の存在感は多くの分野で薄れている。典型が電機業界で、ソニーやパナソニック、シャープの惨たんたる前期決算をみるまでもなく、様々な商品でアジアのメーカーに後れを取り、日本のリーディング産業だったころの面影はない。一方で、今の日本には韓国や中国のような基幹産業を強化育成するための産業政策がないし、輸出企業の存立基盤を揺るがす円高を食い止める有効な政策も打ち出せない。これでは日本企業の持続的な利益成長を信じるのは難しいという。



 2つ目が財務諸表への不信。急激な円高に傷められた電機業界を中心に、前期までに「事業構造改革費用」という名の大きな特別損失を出し、出直しを計る企業が相次いだ。だが、その割には今期の純利益の回復が鈍い企業が多いという。不良在庫なのか、償却すべき設備なのかはわからないが、「まだウミを出し切っていないのではという疑念が消えない」という。また、税効果会計による繰り延べ税金資産を積み増した企業も多く、「PBRの信頼性が低下している」ともいう。確かに日本の輸出企業などの業績は、為替相場や世界の景気動向で大きくぶれる。税効果会計は業績を評価する側にとって大きなかく乱要因だ。

■切り下がった日本株のレンジ

 もしも田辺氏が指摘するように、今の株価が日本経済の成長期待や日本企業の競争力のさらなる低下を映しているとすれば、日本株の上値と下値のレンジは一段と切り下がった可能性がある。外部環境次第では、TOPIXがこれまで頑強な抵抗ラインと思われた700を下回る事態も起こりえる。

 もっとも、だからといって株価が底なし沼に飲み込まれるわけでもない。田辺氏自身、一段の下げに備えて買える銘柄を選別中という。ただし、当然のことながら利食いの水準はこれまでよりも低くなる。