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アメリカ報告・・・リスクマネーの不在
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アメリカについて言いますと、これまで必ず然るべきレベルでリスクマネーが
出てくる国でした。少なくとも戦後について言うと所謂リスクマネーが登場
しなかったことはありません。1990年代にシティーが潰れかけた時も結局
リスクマネーが出てきましたし、何より、マイクロソフト、インテルなどそう
そうたる当時のベンチャー企業にリスクマネーが流れ込んだのは80年代後半
からです。
1987年がオクトーバークラッシュだった事を考えて頂くとこれは大変なこと
で、つまり、片方で株価が史上最大の急落を迎えている一方で、海のものとも
山のものとも当時は分からなかったこういう企業の株式に投資をし続けた金融
機関がある訳です。結局それがゴールドマンだったりモルガンスタンレーだっ
たりで、それこそが「投資銀行」たる所以でありまして、JPモルガンやシティ
ーバンクといった、一般的な「外資系金融機関」として彼らをひとくくりに
すると大間違いを起こす原因となりますのでご注意ください。
少なくとも同じ債券を引き受けた所でそのコンセプトはJPモルガンとモルガ
ンスタンレーでは180度違った訳です。ところが・・・
仰天する様な事が起きてしまった。今回の一連のトラブルの中で彼らのこの
リスクマネーが出てこない。公的資金で彼らは救われ、QEでじゃぶじゃぶの
短期資金を手にしているのですが、一向にそういった投資を行わず、ひたすら
アメリカ国債を買いまくっている・・・結果、ついに米国債券は史上最低レー
トまで買い上げられてしまった、というのが現状です(だからこそアメリカは
首の皮1枚で耐えているということも反面言えるかと思います)。
そしてあの上場廃止に追い込まれたあのファニーメイが今週ファニー史上最大
のファイナンスを敢行。まあ、2年債ということもあったのですが、アメリカ
国債に対しわずか13BPというタイトなスプレッドで当初50億ドル発行予定の
ところ、なんと80億ドルまで増額してソールドアウト、という強烈さ。
オーダーそのものは100億ドルあったというのだから驚きです。
しかもファニーメイによるとおよそ半分は海外の中央銀行の注文(市場の情報
を総合すると間違いなく殆どは中国です)、残り半分がドメスティックのバイヤ
ーであるということです。(WSJより)
しかし、通常こういったエージェンシーの発行では7割くらいを海外勢がもっ
ていくのが普通なので、5割ということは随分アメリカ国内で消化されたと
言う事になるでしょうね。
上場廃止になるってくらいですから会社そのものとしてはかなり怪しい。しか
し、所謂Quasi-Sovereign 債券で政府スポンサー会社による債券の発行なの
で最後はアメリカ政府が面倒をみるでしょうよ、とマーケットが認識している
訳ですが、しかしそれにしても上場廃止されるにしてはあまりにもタイトな
スプレッドでありまして、アメリカ市場全体がリスクをとりたがらない・・・
いざとなると紙切れになる株式よりも何がしかのものが残る債券を選好して
いる・・・というのが実情だと言う事になるでしょう。
実際、アメリカの債券は倒産したあと紙切れにはならずにリセールバリューが
かなり残る場合が多いのです。もちろんゼロ、ってこともあり得るのですが、
実際にはチャプター11をかけてそのあと様々な資産を切り売りしたりします
ので、まあ、リセールバリューが50%程度残る、というのが通常のケースです。
まあ、半値を覚悟すればいいとなると、ゼロになる株式なんかは怖くてやって
られないぜ、という話になる訳です。
これが80年代だと、株式なら4-5倍になるかもしれないのに債券なんて
みみっちいこと、やってられるか、と言う話だったので、先ほどお話し申し
上げたようにアメリカの投資家、及び投資銀行の変わりようはすさまじい、
と言えます。
アメリカ人、まるで日本人と一緒ではないか、という話ですね。
一般企業に目を転じましても実際にはアメリカの企業はせっせとこういう債券
を低金利で発行して、どんどん投資をして雇用を増やしてくれればいい訳で、
これまではそうでした。それが元来のQEに至ったFRBの狙いな訳でして、また
経済理論通りの話でもある。
所がこういうものすごく低金利の資金が集まる事をいいことにそれで前に借り
た高金利の借金を返してしまう・・・というのが今回の実情なのですよ。
ジョンソンアンドジョンソンやコカコーラなどの超一流企業は実際100年
債!! の発行を検討しています。余談ですが、日本政府の財政破綻とか
言ってる連中はこの点ほんとにばかですね、こうなると。債券を扱った事が
ないので無理もないのですが、はっきりいってばかです。
100年後にコカコーラという会社があるのかどうか・・・なんて正直誰にも
わかりませんよね。しかしこんなファイナンスができる、というのが債券の
世界なのです。
実際は30年以上の利回りを計算することはほぼ不可能です。ですから後はコカ
コーラという会社がともかくも100年位は金利を払い続けられるだろう、その
時に返してもらうということは考えず、その時(100年後)に借り換えられ
ればOK、という考え方をしないとこんな債券は発行のしようがありません。
いくら優良企業とはいえ、一民間企業が借り換え前提のサステイナビリティー
を前提にファイナンスする訳ですから、日本政府がなぜそれができないと断言
できるのか・・・と再々申し上げている訳です。
少し話がそれましたが、この優良企業による超低金利での資金調達、実はこれ
こそが株価が上がっている最大の理由でもあるのです。
つまり優良企業は借金を返済したあとにそのタダみたいな金を何に使っている
のかというと・・・自社株の買い戻し。
平たい話、株を自分で買い戻してしまうので流通株式数が減って値段が上がる
のは当たり前。
従って、潤沢に資金調達ができるような優良企業の株価が今後とも上がる
可能性はかなり高い。しかし、一方で全く投資に回っていないので失業率など
は一向に回復しないというマクロ経済の袋小路状態が続いていく、というのが
アメリカの現状です。このあたりを理解しない限り現状のアメリカ経済を理解
することはできません。
因みに昨年1年でおよそ$137BIL程度の自社株買い戻しがあったというのが
S&Pのデータですが、今年はこのままいくと$300BILを超えるのではないかと
市場では言われ始めています。
300BIL と一言で言いますが、30兆円ですよ、これ。これだけの株式が市場
から消える訳ですから、優良企業の株式が上がってもそれはおかしくないです
よね。となると一流企業を集めているダウは上がるがナスダックはだめ、と
いうような構図になるのは容易に想像ができますね。但し、ナスダックには
マイクロソフトもいます。
マイクロソフト・・・彼らはもともと株式のバイバックには極めて積極的。
基本的にボーナスは株で払ってしまうので、株価さえ高ければキャッシュは
払わずにすみます。
そして低金利で資金を調達して自社株を買い戻しておいて株価を上げておけば
従業員からは文句が出ない訳ですよ。特に工場なんかを持っている訳では
ありませんからこういう状況になると財務的には極めて有利な状況になります
ね。「刑務所」といわれつつも、5年勤めればミリオネアになると言われる所以
ですね。
ここまで書きますとお分かりだと思いますが、アメリカ経済は個別企業の時代
に入っているのです。これではGDPがどうした、失業率がどうしたと言った
マクロ経済を議論してもあまり意味がないのですよ。そして何も解決しません。
だって、企業が投資しないんですから。
ということはこの低金利の運用が極めて難しい時に、ばんばん債券を発行して
資金を調達できるような優良企業が自社株を買い戻し、株価がガンガン上がる、
しかし雇用なんて一向にしないし、可処分所得も一向に増えない。正にエリザ
ベス・ウォーレンがいったそのものずばりの経済展開になっていると言えま
しょう。(アメリカ中産階級の崩壊)
従ってもしアメリカに投資をしようと思うなら、個人的にはあまり好きでは
ありませんが、100年債を出せるような超優良企業の株式・債券に投資をする
ことでしょうね。その意味では100年どころか200年は金利が払い続けられる、
日本国債に投資をするのは賢明で、ギリシアなどクレジットの弱い国債の値段
が下がり、日本、アメリカなどの主要国の金利が下がるってのは実に普通の
ことかもしれません。
その文脈で考えると元来強い、つまりいくらでも資金を集める能力がある
ドイツがギリシア、アイルランドなどの巻き添えを食って、相対的に安い資金
が集められないということは実際には実にマイナスな訳です。強いドイツが
どんどん債券を発行し安く資金調達をして、そのお金を融資するというのが
筋で、ああいう弱小国が同じ通貨でムリくり資金繰りを続けるのは愚の骨頂だ、
ということがよく分かって頂けるでしょう。
ということでアメリカ経済を一言で言いますとマクロ経済は全く良くなりませ
んが、個別企業としては超キャッシュリッチで大変優良な財務状態になり得る
訳で、まあ、それが雇用増やいずれ給料の上昇などに反映されればいい訳です
が、給料は70年代から一切上がっていない・・・というウォーレン教授の論文
を読むとこりゃ、だめだ、と思わざるを得ません。処方箋は別々ですが、優良
企業がひたすらキャッシュをため込んでしまう状況は日米とも共通です。
それにしても藤巻さんはいつまでがんばるんだろうね・・・
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下がり続けるドル・・・大丈夫なのか??
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凄い事がおきるものです。前橋さんもリポートしてくださっていますが豪ドル
なんぞ、27年ぶりの対ドル高値更新です。1983年って・・・私が大学を卒業
した年ですわ・・・・
以下WSJを簡単にまとめます。
Australia's dollar on Thursday reached its high level against its U.S.
counterpart in at least 27 years as diverging economic outlooks for the
two countries pushed their currencies toward parity.
ここで言っているパリティーは1豪ドルが1USドルってことですね。カナダ
ドルはとっくにパリティーで、カナダに行くと普通にUSドルで払って換算なし
に普通にカナダドルでおつりをくれます。便利と言えば便利ですけどね、どう
なんでしょうか・・・
The move came as the dollar fell against many major currencies on
expectations the Federal Reserve would resume adding cheap money to the
system to give the weakened U.S. economy a jolt. The dollar fell against
the euro, hit a 15-year low against the Japanese yen, and sank to a record
low against the Swiss franc.
この動きはアメリカFRBがさらにただ同然の金を弱ったアメリカ経済を救う
ためにまき散らすだろう、と思われる事によって起きており、ドルはあの
ユーロに対しても下落、日本円は15年ぶりの安値、そしてスイスフランに
対しては遂に史上最安値を更新した。
The moves reflect persistent concerns over the U.S. economic outlook and
a growing lack of confidence among traders that other countries will come
to the dollar's rescue at meetings of the Group of Seven leading industrial
nations and the International Monetary Fund in coming days.
この動きはアメリカ経済の先行きに対する疑問を反映しているとともにこの
弱いドルに対しG7やIMFなどの世界各国が救済するとは市場関係者がだんだん
確信を持てなくなっている結果といえよう。
(中略)
The figures underscore Australia's position as one of the world's strongest
developed economies, propelled by China's voracious appetite for
commodities from ore to grain. The government, which earlier in the day
said its economy created 49,500 jobs in September, has felt pressure to
contain demand while other developed countries toy with extending measures
to kick-start growth.
このあたりは前橋レポートに詳しいのでよく読んで頂くと有難いのですが、
オーストラリアは中国からのあらゆる分野にまたがる需要によって(鉱物から
小麦まで)先進国中で最も強い経済を誇ると言ってもいい。ちょうどこの日に
あった発表では既に9月だけで95,000人の雇用を作り出したと言われる。
Japan, a safe haven for investment. That is a challenge for exporting
nations because stronger currencies make their products less competitive
abroad.
日本については逃避先として利用されている、といのがWSJの意見です。
そして輸出に強い日本がこの為替による競争力低下に如何に立ち向かうかが
大きなチャレンジだとも言っています。いずれも私の意見とは異なりますが、
ご参考までに。
In Japan, a senior official suggested that tough international
negotiations could be necessary if Japan intervenes again.
日本政府高官によると、日本が再度介入するとなると大変難しい交渉が必要に
なるだろうと・・・これはその通りなんだろうと思います。
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9月アメリカ雇用統計について
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今まだアメリカにおりますので出たばっかり、と言う所ですね。完全に低位
安定の傾向が鮮明になって、ドル円も80円を一度チャレンジにいきましたが、
手前で失速。しかし恐ろしいほどの成長見込みの薄さ、でありましょう。
普通の数字は新聞に出ているのでパス致しまして、こちらでいつも注目して
いるemployment-population ratio (雇用人口比率)は58.5%となり八月と
変わらず。さらにLabor Force Participation Rate (労働参加率)は64.7%
でこれも前月と変わらず。測ったような結果ですね(笑)。 但し参加率は
過去20年間安定的に66-67で推移してきています、ということも何度も
書いてきましたのでみなさまお馴染みでしょう。
そして所謂失業者そのもの、意図せざるパートタイムなどの就業者、つまり
雇用が実際に無い人々の総合指数であるU6は17.1に上昇し、これはワースト
記録の17.4(2009年10月)まであと一歩というレベル。
The underlying details of the employment report were grim. The number of
private sector jobs increased modestly by 64,000, otherwise ...
個々の数値をまとめ上げると今回の雇用統計は酷い、の一言だ。
結局今回プライベートセクターで64000人という雇用増が偶発的にあったので
何となくまとまりましたが、それがなかったらどうなっていたのか・・・
The negatives include the loss of 18,000 jobs ex-Census, the sharp increase
in part time workers for economic reasons (and jump in U-6 unemployment
rate), hours worked were flat (down for manufacturing workers), the
employment-population ratio and labor force participation were flat at
very low levels, and the unemployment rate was flat at a very high level.
ネガティブなファクターはセンサス前の18000人の雇用喪失、経済的理由に
よるパートタイマーの激増(その結果実質的失業者とされるU6の急増)、労働
時間は変化なし(しかし製造業では減少)、そして労働参加率や労働人口比率
は低い水準で横ばい、そして失業率は高水準で横ばい、ということになる。
◆あとがき◆
アメリカにいるといろいろ考える事が出てきます。しかし結局生産人口がまだ
まだ増えるアメリカと、増えようがない日本を比較する事にはやはり無理が
あるのです。