映画「トレーニングデイ」は2001年製作、アントワーン・フークア監督のアメリカ映画である。
【ストーリー】
念願だったロス市警麻薬捜査課に配属された新人刑事ジェイクにとって、今日は勤務初日。彼のパートナーは数々の大物摘発で伝説となり、憧れの存在でもあるベテラン刑事アロンゾだ。やや緊張の面持ちでアロンゾと待ち合わせたジェイク。だが、のっけから唖然とさせられる。「か弱い子羊でいるか、獰猛な狼になるのか、それを選べ」。そう言うと、アロンゾは押収した麻薬をジェイクに吸わせる。意識を朦朧とさせながらアロンゾの捜査に同行するジェイク。そこで彼が見たものは職権乱用による過剰暴力、脅迫、証拠のでっちあげ、どんなモラルも通用しない犯罪捜査の最前線だった。翻弄するジェイクをよそにアロンゾの行動はエスカレートしていく。そんななか、アロンゾの昔なじみの情報屋から、ロシア人によるアロンゾ報復計画を聞き・・・。
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主人公のデンゼル・ワシントン演じる麻薬捜査課の悪徳警官アロンゾのところに、イーサン・ホーク演じる新人刑事ジェイクが配属される。
アロンゾはジェイクが自分のチームで使い物になるかどうかを見極めるために、捜査の実態を体験させて次々と難題を課していく。
基本的にはこういう話なのであるが、ここにアロンゾ自身のロシア人マフィアとのトラブルが絡んできて事態は思わぬ方向に進んでいくことになる。
▼映画「トレーニングデイ」予告編
アカデミー賞について
この作品の第一の注目ポイントとしては、主演のデンゼル・ワシントンが2002年のアカデミー賞で主演男優賞を受賞していることだろう。
つまり、まずこの作品はデンゼル・ワシントンの悪徳警官ぶりの名演技を見る作品である。
新人刑事役のイーサン・ホークも助演男優賞にノミネートされていたが、受賞には至っていない。
しかし、個人的にはイーサン・ホークの演技もかなり良く見えた。
そして、このイーサン・ホークの演技によってデンゼル・ワシントンの悪徳警官ぶりが映えている印象であった。
ちなみに他の部門ではノミネートすらされていないので、このことからも、この作品がいかにこの二人のやりとりを中心とした作品であるかということがわかる。
映画「デンジャラス・ラン」について
「トレーニングデイ」を観ていてピンときた作品が、「デンジャラス・ラン」であった。
映画「デンジャラス・ラン」は2012年製作、ダニエル・エスピノーサ監督のアメリカ映画である。
【ストーリー】
最果ての地、南アフリカにあるCIAの隠れ家に一人の男が連行されて来た。彼の名はトビン・フロスト。36カ国で指名手配を受けた犯罪者にして、元CIA最強のエージェント。そして彼が収容されるやいなや、完璧なはずの隠れ家が襲撃される。「彼らは、俺を狙っている。お前は俺を守る義務がある。どうする?」フロストに選択を迫られる隠れ家の管理人マット。新米CIAの彼は壊滅寸前の隠れ家からフロストを引き連れ、決死の脱出を試みる。武装した未知の敵は何者なのか?フロストが狙われる理由は何なのか?世界から狙われる男と運命を共に、今、危険過ぎる逃亡劇が始まる !
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この作品も、デンゼル・ワシントン演じる元CIA最強のエージェント・フロストとライアン・レイノルズ演じる新米CIAエージェント・マットの二人の駆け引きが話の中心であり、「トレーニングデイ」と同様に新米のマットは元CIA最強のエージェント・フロストに歯が立たない。
そして、この作品を「トレーニングデイ」のCIA版と見る決定的な理由は、デンゼル・ワシントン演じる主人公の悪徳ぶりである。
この二人の主人公はどちらも悪徳の中の正義を語り、二人の新米はどちらも真っ当な正義にこだわる。
作品全体としては、「トレーニングデイ」はデンゼル・ワシントンの悪徳警官ぶりが見所な作品であって、「デンジャラス・ラン」は逃亡劇の派手なアクションが見所の作品となっている。
似た設定で同じテーマの作品をそれぞれ別のテイストで味わえるというだけならば、わざわざブログ記事にしなかったのだが、「トレーニングデイ」はサスペンスアクション作品でありながらも、本当の見所は、悪に染まれという圧力に抗おうとする新人刑事・ジェイクの心の動きにあるように思われた。
この作品が悪徳警官アロンゾと新米刑事ジェイクの二人のやりとりを中心としているのは、アクション活劇を面白く描くためではなく、悪徳警官の生き様を引き立てるためでもなく、実は正義とは何かということをテーマにして人間同士の駆け引きを描くためだろう。
「デンジャラス・ラン」とは違って、「トレーニングデイ」にはサスペンスとアクションを織り交ぜながら人間を見ていく深味があった。
そして、かつては自分も同じように正義感に燃える新米刑事でありながら悪に染まったアロンゾと、このアロンゾの前で葛藤するジェイクの姿を追っていく間にジェイクの心の動きに引き込まれていって、観ている側も正義とは何かを問われ続けるのである。
アントワーン・フークア監督とのコンビについて
アントワーン・フークア監督は 映画.com によると、1998年の「リプレイスメント・キラー」で長編映画監督デビューをしており、2001年製作の本作が次の作品である。
1954年生まれのデンゼル・ワシントンは2001年の製作当時47歳で、この作品でやっとアカデミー賞主演男優賞の受賞に至る。
アントワーン・フークア監督とはこの後、2014年製作の「イコライザー」と2018年製作の「イコライザー2」で再びコンビを組んでいる。
▼「イコライザー」(2014)
▼「イコライザー」(2018)
「イコライザー」シリーズについてはこのブログでも過去に紹介している。
このシリーズは正義感から私刑の鉄槌を食らわせていく元CIAエージェントの話であり、フークア監督はこの手の正義を描くことについてこだわりがあるように思われた。
本題(ネタバレあり注意)
先述の通り、「トレーニングデイ」はデンゼル・ワシントンの悪徳警官ぶりが見所ではあるが、個人的には新米刑事ジェイクの心の動きに注目した作品であった。
この作品を新米刑事ジェイクの視点で観ると、ジェイクの真っ直ぐな正義感がベテラン刑事アロンゾの手練手管によって揺さぶられて少しずつ悪に染まっていくが、真っ直ぐな正義感が土俵際で踏ん張るという心の動きがよく描かれている。
こうも見えるということは、デンゼル・ワシントンの悪徳警官ぶりを全面に出しつつも、悪徳の中の正義と真っ当な正義の対決が作品全体のテーマとして設定されているということである。
しかしながら、この悪徳の中の正義というものは、実に厄介なものである。
真っ当にやり過ぎていては麻薬捜査などできないという現実をジェイク経験させながら、悪に染めていくアロンゾの手口は実に巧妙で説得力がある。
これが麻薬捜査でなく企業であっても、やはりこうして人は違法行為に手を染めていくのだろうと思わせる恐ろしさが感じられた。
「トレーニングデイ」ではベテラン刑事アロンゾはやり過ぎて悲惨な最後を迎えるという形で、全体としては勧善懲悪の物語になっている。
一方「イコライザー」では私刑は肯定的に描かれている。
この点では、「イコライザー」の主人公は、悪徳の中の正義を実践するアロンゾの別な姿であると見ることができる。
とすると「トレーニングデイ」においても、法律の通りにやるだけでは問題は解決できないという現実において、ある程度の悪は許容されざるを得ないのではないかという問題提起が含まれているようにも思われる。
であるからこそ、アロンゾの言動に説得力を感じる部分があったではないだろうか。
この前提で「トレーニングデイ」の物語についてもう一度考えてみると、これは純粋な勧善懲悪というよりも、法律の通りにやるだけでは問題は解決できないという現実において、ある程度の悪は許容されざるを得ないが悪に飲み込まれてしまえば破綻する、という物語であったと見ることができる。
そして、ある程度の悪が許容される中で、悪に飲み込まれていく方向に動く心を押し留めるものとして、新人刑事ジェイクの正義感が対置されていたのではないかと思う。
やはりこの作品も正義の重さを感じさせる作品であった。
さて、こうしてみるとこの路線で悪を許容しながらも正義感を失わない主人公が見たくなる。
やっぱり見たくなるよねぇ。
個人的には、これが「イコライザー」の主人公であるよう思われた。
そして、
法律は万能ではないから、最後に問題を解決するのは人間の正義感である。
これがフークア監督の思うところなのではないだろか。
この意味では、「トレーニングデイ」は「イコライザー」の原点と言える作品なのではないかと思う。
尚、「トレーニングデイ」のあらすじについてはこちらのサイトも参照されたい。
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