NHK「心と脳の白熱教室」エレーヌ・フォックス『脳科学は人格を変えられるか?』 前編 | 日々是本日

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NHKに「白熱教室」というシリーズ番組がある。

 

これは、著名な教授の一般公開授業を録画して放送するという番組で、

「心と脳の白熱教室」は心理学者であるエレーヌ・フォックス教授の4回シリーズである。

 

 

各回は50分程度の講義で、タイトルは下記の通りである。

 

  第1回 楽観脳と悲観脳
  第2回 本当の楽観主義とは

  第3回 あなたの中のサイコパス ※この回のみ講師はケヴィン・ダットン博士
  第4回 あなたの性格は変えられる

 

全体としては、楽観と悲観についての脳科学的な説明から、

楽観主義とは何かということについて考察し、

どうしたら楽観的になれるかという問題へと進んでいく。


「第1回 楽観脳と悲観脳」ではまず、

楽観的であることや悲観的であることが、

そもそも人生に影響しているという問題喚起からはじまる。

 

「夜と霧」で有名な心理学者フランクルは、

第二次世界大戦中にナチスの強制収容所に連行されたが、

そこで生死を分けたのは、

希望を持ち続けられたかどうかだと書いている。

 

 

戦争が終わったからといって、

希望を持つことが人生に影響しなくなるという訳ではないのだから、

楽観的であることは我々の人生に影響し続けているはずである。

 

脳科学的な観点では人間はどちらかというと悲観的である。

脳科学の発展により、近年では楽観的であることに関わる脳の部位と、

悲観的であることに関わる脳の部位が明らかになっている。

そして、その部位の影響は基本的には悲観的であることにかかわる部分の方が大きいのである。

 

このことは、進化の観点からは理解しやすい。

楽観的でありすぎて、あまりにも危険を顧みず行動するのであれば

人間は現在まで生き残らなかったかもしれない。

 

悲観的な見方で用心しながら行動するということは、

生き残るという点ではプラスに働いたであろうという説明になる。

 

脳の層構造の説明もあったが、

大雑把に、思考脳、感情脳、生存脳と分けたわかり易さい説明となっていた。

 

次に、楽観的であったり悲観的であったりということによってもたらされている、

心理的なメカニズムが説明される。

 

これが何かというと「認知バイアス」と呼ばれるものである。

「認知バイアス」とは客観的な事実に対して、

実際に認識される内容は良くも悪くも歪められているということである。

我々が、客観的な事実をあのままに認識するということはほぼない。

 

ここでのポイントの一つは、

楽観的な人と悲観的な人ではこの歪み方の傾向に違いがあるということである。

同じ事実であってもその受け止め方は、

楽観的な人と悲観的な人では大きく異なるということが説明される。

 

この話でよく知られているのは「コップ半分の水」の例えである。

楽観的な人は「水が半分もある」と思い、

悲観的な人は「水が半分しかない」と思う。

 

講義では、また別の面白い例え話が聞ける。

 

もう一つのポイントは、

多くの人が客観的な事実をありのままに認識することは

ほぼないということに同意しながら、

実際には自分の認識は客観的な事実にかなり近いものであるという

錯覚に陥りがちだということである。

 

第1回ではこの認知バイアスを理解することに、

比較的多くの時間が割かれているのであるが、

我々のこの錯覚の根深さからすれば、実に妥当な構成である。

 

「第2回 本当の楽観主義とは」では事例と心理テストを中心に、

楽観主義とは何かということについての考察が行われる。

 

修道女の日記研究、マイケル・J・フォックスのインタビュー、エジソンのエピソードなど

の事例が紹介される。

 

冒頭に脳科学的な背景についてのまとめがあるので、

この回から観ても差し支えない。

 

また、幸福に影響する要因について実感するために、

「人生の満足度テスト」、「楽観性テスト」も体験することができる。


個人的に印象的だったのは、あまり周りを気にしない方が良いという話である。


 「経済的な豊かさはある水準までは幸福感を大きくするが、
  そこを超えると反比例するように作用する。」

 

この「イースターブルックの進行逆説」と呼ばれる法則を紹介した後で、

フォックス教授は言う。

 

 念願の車を買って嬉しいはずなのに、

 隣人が突然にもう少しいい車に乗っているのを見たら、

 幸福感が消えてしまうなんて!

 

まったくその通りだ!が、こうした比較をしてしまいがちなのである。

 

なんてこったい!

 

もう一つ印象的だったのは、

感情をコントールする力が心の回復力と関係しているという話である。

 

困難な時でも、楽しい気持ちを忘れないような感情のコントロールが大切であると言う。

 

結論としては、「本当の楽観主義」とは単にポジティブに考えることだけでは不十分であり、

その他に下記の3つが重要であると言う。

 

  ・実際のポジティブな行動
  ・根気と粘り強さ
  ・自分の人生をコントロールしている感覚

 

事例と心理テストを交えながら、

結論に対して説得力のある講義になっている。

 

ポジティブに考えればそれでいいというのは、

あまりにも楽観的な見方だったようだ。

 

(後編に続く)

 

 

・テキストについて

 

NHK Eテレ「心と脳の白熱教室」で放送され話題となったエレーヌ・フォックス『脳科学は人格を変えられるか?』が文庫化! カギは、楽観脳と悲観脳にあった! 特設サイト - 文藝春秋BOOKS

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