NHK「数学ミステリー白熱教室」エドワード・フレンケル『数学の大統一に挑む』 | 日々是本日

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NHKに「白熱教室」というシリーズ番組がある。

 

これは、著名な教授の一般公開授業を録画して放送するという番組で、

「数学ミステリー白熱教室 ~ラングランズ・プログラムへの招待~」は

数学者であるエドワード・フレンケル教授の4回シリーズである。

 

 

各回は50分程度の講義で、タイトルは下記の通りである。

 

  第1回 数学を“統一”する!
  第2回 数の世界に隠された美しさ ~数論の対称性~ 

  第3回 “フェルマーの最終定理”への道 ~調和解析の対称性~
  第4回 数学と物理学 驚異のつながり

 

全体としての内容は、副題にある通り「ラングランズ・プログラム」という、

数学の異なる分野を統一しようという試みとは何かということである。

 

数論、調和解析、幾何学という数学のことなる分野は、

対称性(シンメトリー)という概念を媒介として相互に関係づけることができる。

 

各領域の大統一は数学の実際上の意味においては、

異なる領域が関連づけられることによって、ある領域で解けない問題について、

異なる領域の考え方を用いて解くことが可能になるということである。

 

更に、数学の発展のおいての意味がある。

数学の個々の領域は、

それぞれ数学的法則の一部を明らかにしているにすぎないので、

これらを結びつけて大統一するということは、

未だ知られていない数学的世界の全体像を明らかにするということである。

ここに数学発展における、非常に重要かつ魅力的な意義がある。

 

数学に「分野」が存在しているのは

人間の認識不足による幻想ではないか?

 

という問題を、ラングランズ・プログラムは提起しているのである。

 

 

---以下、ネタばれあり---

 

「第1回 数学を“統一”する!」は、

まず、ラングランズ・プログラムとは何かという説明から始まる。

 

ラングランズという名称は、

このプログラムの提唱者である数学者ロバート・ラングランズに由来している。

 

そして幾何学における対称性の概念が説明される。

 

「第2回 数の世界に隠された美しさ ~数論の対称性~ 」では、

数論における対称性の概念が説明される。

 

このへんの内容は、この後の大統一を理解するための基礎となる内容であるが、

この前提となる基礎知識を実にわかりやすく説明している。

 

特に上手いと思うのは、核心部分の内容の抜き出し方と、

それを細部の詳細にはこだわずに、わかりやすい例えを用いて説明しているところである。

 

「第3回 “フェルマーの最終定理”への道 ~調和解析の対称性~」では、

フェルマーの最終定理を具体的な例として、調和解析の対称性が説明される。

 

フェルマーの最終定理とは17世紀のフランスの数学者フェルマーによる下記の定理である。

 

  xのn乗 + yのn乗 = zのn乗

  上の方程式でnが3以上の自然数の場合、これを満たす解はない。

 

これが350年以上も後の1995年にワイルズとテイラーによって証明された時には、

かなり話題になった記憶がある。

 

この話の面白いところは、単に350年後に証明されたという点ではなく、

そのプロセスにある。

 

1950年代に日本の数学者である谷山豊と志村五郎によって、

今では「志村・谷山・ヴェイユ予想」と呼ばれる定理が発展させられた。

 

そしてこの定理を証明することは、

フェルマーの最終定理を解くことでもあることが認識されたのである。

この気づきは、1986年、ケン・リベットによるそうである。

 

「志村・谷山・ヴェイユ予想」は代数の問題であるから、

領域としては数論に属する。

 

そして、「志村・谷山・ヴェイユ予想」は「調和解析」という

別の領域の理論を用いて解かれた。

 

つまり、この長き道のりが達成されるためには、

まず「志村・谷山・ヴェイユ予想」の証明と「フェルマーの最終定理」の証明の関係性に

気づく必要があり、

更に、「志村・谷山・ヴェイユ予想」が調和解析を用いて解けるということに

気づく必要があったのである。

 

「どうしたらこんな思い切った洞察で革命的な発見ができたのか。」

 

と、フレンケル教授は言っている。

 

そして、こうした洞察に必要な直観や閃きが数学には必要だという。

 

実に素晴らしい講義だった。

 

「第4回 数学と物理学 驚異のつながり」(最終回)では、

量子物理学と数学の関係が説明される。

これは、最近の10年間による研究の成果に基づく内容で、

かなり新しいテーマである。

 

物理学による実在世界の法則と概念的世界を取り扱う数学理論が

対応しているという説明には、確かに驚きがあった。

 

最終回なので最後の5分間程度が「数学とは何か?」という話に割かれている。

人間の営みとして数学はどのようなものであるかということが熱く語られた。

 

フレンケル教授は数学は文化の一部だとも言っているが、

こうした大きなテーマに行きつく講義は、

日常生活の疲弊した心に力を与えてくれる。

 

最後に、全体についての感想である。

 

はっきり言ってしまえば、

数学について考えることは殆ど人にとって日常の生活と関係ないだろう。
 

番組を観ていても、内容的には自分の日常生活と関係ないように感じられた。

しかし、面白かった。

ここに数学独自の世界があるのだろう。

数学という概念の世界を構築し、
これをまた面白いと思う人間もなかなか不思議だ。

 


・テキストについて

 

出版元である文藝春秋の下記サイトには、各章の簡潔なサマリがある。


NHK Eテレ「数学ミステリー白熱教室」 エドワード・フレンケル『数学の大統一に挑む』 

特設サイト - 文藝春秋BOOKS
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