NHK「宇宙白熱教室」ローレンス・クラウス『宇宙が始まる前には何があったのか?』 | 日々是本日

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bookudakoji の本ブログ

 NHKに「白熱教室」というシリーズ番組がある。

 

 これは、著名な教授の一般公開授業を録画して放送するという番組で、

 「宇宙白熱教室」は宇宙物理学者であるローレンス・クラウス教授の4回シリーズである。

 

 ぐぐーりしてみると、一応この本がテキスト的な位置づけになっていた。

 

 

 各回は50分程度の講義で、タイトルは下記の通りである。

 

  第1回 入門編(1)宇宙のスケールを体感する
  第2回 入門編(2)物理学者の秘密のお仕事 

  第3回 宇宙は膨張している!そして暗黒物質へ
  第4回 そしてダークエネルギーの発見~私たちのみじめな最後

 

 全体としては、第1回で世界を宇宙のスケールで考えところから始まり、

 第4回では宇宙は膨張しているのかどうかという問題の結論へと進んでいく。

 

 この番組関連の媒体はあまり統一されておらず、

 ある教授のシリーズはDVDがあったり、

 別の教授のシリーズでは著書そのものがテキスト的に紹介されていたりするようである。

 

 この本は後者のケースなのでDVDは見つからなかったが、

 動画は誰でも知っている有名サイトにアップされている。

 

 内容については実のところ、

 クラウス教授の説が正しいのかどうかはわからなかったのであるが、

 講義としては実に見るべきところがあった。

 

 それはこの講義の前半(第1回~第2回)が、

 宇宙は膨張しているのかどうかの説明ではなくて、

 宇宙が膨張しているかどうかを考えるために必要な、

 思考の道具立ての説明に費やされていたからである。

 

 第1回では、オーダー(単位)の違いを実感するために、

 銀河の集まり全体にまでに話は及び、

 その後でミクロの世界を素粒子まで遡る。

 

 これが10の何乗かという指数の単位と対応づけながら説明されているところに、

 実は重要な意味がある。

 

 宇宙のスケールで物事を考えるためには、

 それに相応しい単位で物事を考える方法について知っておく必要がある。

 

 一方でミクロの世界に遡るのは、

 宇宙について考えるのに必要な物理世界を支配してる法則(重力や電磁気力など)は、

 原子や素粒子などのミクロの世界で作用しているからである。

 

 講義の意味合いからするとこういう説明になるが、

 「オーダー(単位)から世界を見る」という講義として、

 単独で楽しめる面白さだった。

 

 第2回は「入門編(2)物理学者の秘密のお仕事」となっていて、

 どんな内容かわかりにくいタイトルである。

 

 趣旨は「大雑把に考える」ということであって、

 下記の記事でも紹介したフェルミ推定の実演に大半の時間が割かれている。

 

 

 これもまた、講義の意味合いからすれば、

 長さをL、時間をTと表現するような記号と、

 それに指数を組み合わせた演算の導入なのであるが、

 「大雑把に考える」という講義として、

 単独で楽しめる面白さなのである。

 

 フェルミ推定の勉強会を行う際にも実に参考になる。

 特に 34分~37分 の部分に、有名なフェルミ推定課題である

 「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」の実演がある。

 

---以下、ネタばれあり---

 

 さて、後半(第3回~第4回)でいよいよこれまでのお膳立てから、

 宇宙は膨張しているのかどうかを考えていくことになる。

 

 第3回では、宇宙が膨張しているのかどうかという問題設定が、

 ある数式の答えが、正(プラス)になるか負(マイナス)になるか 0(ゼロ) になるかを、

 計算することであるという形に置き換えられる。

 そしてこれを、記号を中心とした演算と観測結果から考えていく。

 (この辺の詳細については下記のテキストを参照されたい。)

 

 第4回では、結論としては宇宙は膨張しており、

 紆余曲折を経たのちにダークエネルギーの発見までの道筋が説明される。

 

 宇宙が加速膨張し続けるならば、銀河と銀河の間の距離も広がり続けることになり、

 180憶光年離れるとその速度は光速を超えるために見えなくなると言う。

 

 その結果、近くの銀河団は集まって一つの銀河となり、

 離れた銀河は見えなくなるという。

 つまり、将来的には一つの銀河が残りそれ以外は観測できない世界になるという。

 これが、副題の「私たちのみじめな最後」の意味である。

 

 さて、そうなるまでの時間はどのくらいなのだろう。

 答えは二兆年である。

 

 クラウス教授は他の銀河を観測できなくなってしまう状況を、

 自分たちの銀河が取り残されるというみじめな最後だと位置づけている。

 

 しかし同時に、

 二兆年の間には新しい観測技術も開発されるかもしれないし、

 遠い未来の宇宙は私たちの想像とはまったくことなるものかもしれないとも言っている。

 

 個人的には悲観的な印象ではなかった。

 

 最後に、内容的な部分に関わらない感想として、

 考えを遡ってみれば、思考を進めるのに必要な最小限のお膳立ては、

 確かに講義の中に含まれていたということ大きな驚きがあった。

 

 このことに、考えるということの本質を見せられた気がした。

 

 

・テキストについて

 

出版元である文藝春秋の下記サイトには、各章の簡潔なサマリがある。

 

NHK「宇宙白熱教室」ローレンス・クラウス『宇宙が始まる前には何があったのか?』 

「種の起源」に匹敵! 宇宙論のパラダイムシフト - 特設サイト - 文藝春秋BOOKS

http://books.bunshun.jp/sp/uchuhakunetsu