本棚に埋もれていたシートン動物記をちょっと読み直した。
良かったと感じたのは「サンドヒル雄鹿の足跡」。
動物視点の話が多い中で、人間(猟師)視点で描かれている作品。
シートン人間記といった趣がある。
ヤンという19歳の若い猟師が、
サンドヒル・スタッグ(砂山の雄鹿)と呼ばれるすばらしい鹿と出会い、
何年にもわたり追跡し続ける物語である。
食肉産業の生産する肉を日々食べている身としては、
鹿を「ただの肉屋にぶらさげる肉」と言うところに、
グサッと胸に刺さるものがあった。
【あらすじ】注:ネタばれあり
サンドヒル・スタッグを初めて目撃して、すっかり魅了されてしまったヤン青年は、
そのシーズン中、ずっと足跡の追跡を続けるがとうとう見つけることができなかった。
翌年のシーズンには四、五人の仲間と狩りに出たが、
やはり見つけることはできなかった。
ヤンは仲間と合流せずに、独りで追跡を続けた。
ヤンは思う。
何を手に入れるために何をなげうっているのかわかっていない連中には、
望みのない苦役に命をすり減らしているように見えるだろう。
しかし、ヤンはそこに幸福を見出すような青年だった。
ヤンは遂にサンドヒル・スタッグを発見するが、仕留めることはできなかった。
サンドヒル・スタッグは、そこに現れた雌鹿と共に去っていった。
数年の後、サンドヒル・スタッグの知らせを受けたヤンは、
再び狩りに向かった。
サンドヒル・スタッグの群れはあの雌鹿と五頭の子どもからなる、
七頭のグループになっていた。
ヤンは三人の仲間と狩りにでたのだが、その内の一人が辛うじて雌鹿を仕留めた。
ソリに乗せた獲物を前にしてヤンは思う。
「これが、そのおぞましい成功であろうとは。」
「美しくも輝かしい、命あふれた生きものが、見るもいとわしい一塊の肉になってしまうことか?」
獲物を引いて引き上げる仲間たちと別れて、ヤンはまた独り追跡を開始する。
そして遂に遂にサンドヒル・スタッグを追い詰める。
しかし、サンドヒル・スタッグと面と向かって見つめ合う内に、ヤンの心は変わる。
「年をとるにつれてますますおまえたち鹿の仲間を、ただの、鉄砲の的だと思ったり、肉屋にぶらさげる肉だと見たりしなくなるだろう。」
「俺は今日悟ったのだ。」
「さようなら!」
ヤンは撃たなかった。
※「」は出典本に準じた部分