翻訳できない世界のことば | BOOKROOM

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本と本屋が大好きな私の、おすすめする本です。

「翻訳できない世界のことば」

    (エラ・フランシス・サンダース  創元社)




最近つくづく思うのは

「ずっと変わらず好きなものがある」ことと

「その時好きでも、気持ちがさめるものがある」

ということで、

どちらも大切で、だから楽しい

ということが

やっと身に付いた気がしています。


たぶん私は、10代から今までずっと

「今、自分が言葉で手にしていないもの」に

ずっと興味がある。

そして、その、「今、言葉でつかまえきれていないもの」を

手に入れたいという願望が

大学の専攻も、仕事も、趣味にも影響している

と、最近気づきました。


それはたとえば

心理学の「無意識」のように

「自分の中に、確かに在って、

行動にすごく影響しているのに

言語化されていないもの」を

はっきりと認識したい、


とか


「今いる平面では見えないものが

高いところからは見えるように

次元をひとつあげる視点や考え方」が

読みたい、


とか


「今もっている語彙では表現できないものを

表現できる、未知の言葉」を

手に入れたい。


この本。書店で一目惚れして買いました。

ある国の言葉では簡潔に単語で表現できるのに

それに対応するような

日本の単語が存在しない、

というようなニュアンスや感情や状態が

次々登場して、

ページをめくるたびにため息が出ます。




「サマル」というアラビア語の名詞は

「日が暮れたあと、遅くまで夜更かしして

友達と楽しく過ごすこと」

です。

大学時代の、寮やアパートでのあれこれは

この一言で言い尽くせる。


「メラキ」というギリシャ語の形容詞は

「料理など、なにかに自分の魂と愛情を

めいっぱい注いでいる」という状態。


私が胸にそっと納めた言葉は

97ページの

「ナーズ」というウルドゥ語の名詞です。

こういうものを、あのとき、あの場所で

私は確かにもらった・・・という記憶は

どんなに人の力になるだろうと思った言葉。


装丁も挿絵も美しくて、

目と心がよろこびます。

贈り物にしたい一冊。