『貸し込み』 (上・下) 黒木亮 | ページをめくった先に広がる世界と解け合う心

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貸し込み(上) (角川文庫)/黒木 亮
¥660
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***この作品は2010年3月に読了しました***

バブル最盛期に行なった脳梗塞患者に対する過剰融資で訴えられた大手都市銀行は、元行員の右近祐介にすべての責任を負わせようとする。右近は我が身に降りかかった濡れ衣を晴らし、銀行の巨悪を告発するべく、証言台に立つことを決意。マスコミと有能な女性弁護士の協力を得て、全面対決の構えをとった。しかし、銀行は組織の体面にかけて、なりふり構わぬ戦いを挑んできた。経済小説の旗手が実体験をもとに描く迫真のドラマ。
(Bookデータベースより)



バブル期、金余りの時代。
「貸し込め! あらゆる理由を見つけて、貸し込むんだ!」
大淀銀行銀座支店では、毎日のように支店長から檄が飛び顧客担当者達は血まなこになって借入先を探していた時代だった。
そんな時代、誰かが、脳梗塞でまともな判断ができなくなった顧客に多額の貸付を実行していた。
総額21億もの融資を実行され、その大半を両建て預金にされていた脳梗塞患者、宮入悠紀子。
彼女の家族は、過剰融資であったとして、大淀銀行とその保証会社に対し、賠償請求と自宅抵当権の抹消を求め裁判を起こしていた。
銀行側は、すでに退職していた元行員の右近祐介に全責任を押し付け、その濡れ衣を着せようとしていた。
自分の与り知らぬところで、犯人扱いされていたことを知った右近は、自らの潔白を証明するため、裁判の証言台に立つことを決意する・・・。



久しぶりの経済小説でした。しかもかなり本格的?な。
下巻の解説を読んで知ったのですが、この作品は実際の事件をモデルに描いているそうです。
主人公は著者自身。そう、著者自身が巻き込まれた銀行との裁判をもとに描かれたドキュメントタッチな作品だったみたいです。


まず、上巻は、裁判となった融資のあらましが詳細に描かれます。
脳梗塞で知的能力が低下していた顧客への融資。しかもその顧客への融資は、サインの偽証から始まり、印鑑届けの偽造、白地の借入申込書へのサイン、両建預金など、杜撰と言うには生ぬるいほどの融資手続きの実態には呆れてしまいました。


そして銀行と言う大企業ならではの、風通しの悪さがうまく描かれています。
一案件だけにかかわっていられないとは言え、危機感のないトップ。自己の保身しか頭になく、事実を歪曲して報告する部下。
さらには自分達の都合が悪くない書類しか出さない企業風土を批判し、また、こうした大手銀行対個人が争う裁判が抱える日本の司法制度の問題点に言及しています。



また、マスコミに圧力をかける銀行側の裏話的なストーリーや、7年間に渡り宮入の口座から引き出されていた17億もの使途不明金などはミステリ風でもあり、グイグイと引っ張られるように先へ先へと読み進められました。




貸し込み(下) (角川文庫)/黒木 亮
¥740
Amazon.co.jp
***この作品は2010年3月に読了しました***
泥仕合の様相を呈していた裁判だったが、右近の証人出廷によって銀行の融資管理の杜撰さが明るみに出る。また、偽証の横行や印鑑偏重主義など裁判制度の限界と金融行政の欠陥も露呈される。そこへ、金融被害者問題に強い関心を持つ国会議員が登場し、事態は一気に打開されるかに思われた。しかし、事件の裏には複雑・怪奇な真実が隠されていた―。金融被害裁判の実態をかつてないリアリティで描く経済小説の傑作。
(Bookデータベースより)



「債務者は銀行のモラルを信じていたが、当の銀行はモラルなどかなぐり捨てていた時代の悲劇だ」



下巻では、まず大きなヤマの一つである主人公の証人尋問から始まります。
そして脇役には上巻から出ていた弁護士やマスコミに加え、新たな弁護士や金融消費者保護推進議員連盟の幹事を務める国会議員まで登場してきます。


裁判の描写は、よく言えば、詳しくキッチリ描いてあるのでリアリティもありましたが、悪く言えば長々とちょっと冗長に感じてしまう部分もありました。
裁判の結末までの展開もサスペンス風でよかったですが、裁判の結末が描かれた後も、使途不明金の追跡などミステリ調だったりして最後まで飽きさせない展開でよかったです。
ただ、著者ご自身が巻き込まれた実話を元にしているとのことで、其処彼処で厭味っぽい表現があったり、多少上から目線な表現が鼻についたりしてしまいました。



また、アメリカ式のディスカバリー(証拠開示)制度を持ち出して、銀行側が都合のいい書類しか出さないことを非難しているのですが、主人公たちも、自分達に不利になる議事録を当初出さなかったではないか、と言いたくなりました。
確かに相手の大手銀行側は組織ぐるみで偽証しているのですが、何だかそれを言い出したらスジがとおらないように感じてしまいました。



内容が内容なので経済用語や裁判用語、はたまた銀行の手続きやローンの専門用語も出てきたりして、ちょっと取っ付きにくいかも知れませんが、知らない人にでもわかりやすいように解説してあったりするので、無理なく読めて、しかも勉強にもなる良い作品だったかと思います。





★★★★



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