『奇談』(行川渉 角川ホラー文庫)

読了。


原作は諸星大二郎『海竜祭の夜』に入っている「生命の木」。

地方の隠れキリシタンが実は生命の木の実を食した不死の末裔である、というようなお話。


原作を映画向けにではあるけど割りと忠実に再現してあるのだが、逆にそれが可もなく不可もない話になってしまっていて残念。

どうせ映画にするのであればもっと大胆にアレンジしてもよかったんじゃないかと思う。

同じでなるのなら原作のほうが数倍おもしろいからね。


離れの部落にいる住民がみな知恵遅れで、それは知恵の実ではなく生命の実を食べたためで、彼らはずっと死なない体のまま贖罪の日を待ち続けている。そして裁判の日がきて…というのはほぼ結果論なオチだから読んでおもしろいと思うか思わないかが結構分かれるとは思うけど、伝奇としては元が元だけに十分に楽しめる内容だと思う。


願わくばもっと「妖怪ハンター」が他メディアで取り上げれることを切に希望します。

だってこんなにおもしろい伝奇モノはそうはないと思いますよ。

行川 渉, 諸星 大二郎
奇談

『秘太刀・馬の骨』(藤沢周平 文春文庫)

読了。


前に「秘剣・馬の骨」と書いてしまいましたが「秘太刀」の間違いでした。

ごめんなさい。


以前、NHKで放送されていた同名のドラマがおもしろかったので原作も読んでみた。

こっちもちゃんとおもしろい。

「秘太刀」の響きもすてきだが、なによりもその秘太刀にいくつくまでに何人もの剣豪と勝負していくその過程が楽しかった。


北国の小藩伝わる秘太刀・馬の骨を巡って浅沼半十郎と石橋銀次郎が矢野道場の高弟たちと

ドラマと違い原作では主人公は半十郎のだったのでこれだけ読むと銀次郎は本当にただのお騒がせ野郎なのもおもしろい。

その銀次郎は神道無念流の皆伝なのに矢野道場の高弟たちによく負けるところが愛らしいよ。しかも銀次郎は高弟と試合をするためならどんなに汚い手を使っても勝負をしようと(させようと)するところもよかった。

全然スマートじゃないけど憎めないキャラでした。


反面、半十郎のほうは夫婦喧嘩してるところ以外は陰が薄いなぁ…ちょっと残念。


藤沢周平はあまり読んだ事がないんですが、もうちょっと読んでみたいですね。

藤沢 周平
秘太刀馬の骨

『妖霊星』(瀬川ことび 徳間書店)

読了。


一時、瀬川ことびの本を買い漁ってた時期がありました。

これはその負の遺産の最期の一冊です。


とりあえずは地獄太夫がエロかったです。

日野勝光と足利義尋に嬲られてるときとかちょっとドキドキしちまいました。

でも思ったよりも魑魅魍魎の類が出てこなかったのがちょっと残念。出てきたのは天狗ぐらいかしら。

あとは最期のオチがなんとも言えず消化不良だったのでもう少しカタルシスが欲しいところでした。


でも最期に能楽師が崇徳院を舞って慰め供養するくだりはちょっと鳥肌が立ちました。もう少し中だるみのない話だったらもうちょっとは楽しめたのになぁ。


今度はもっと妖怪がわんさかでてくるような話が読みたいですね。

まぁしばらく瀬川ことびは読まないと思いますが。


瀬川 ことび
妖霊星

『真説宮本武蔵』(司馬遼太郎 講談社文庫)

読了。


ちょっと前に見たNHKの「秘剣・馬の骨」が思いの他おもしろかったので、無性に剣豪小説が読みたくなってしまいブックオフで手に取りました。


今更言うまでもないけどやっぱり司馬遼太郎の小説はおもしろかったです。

長編もおもしろいけど短編もおもしろいです。

冷静な距離感で歴史上の事物を見届け、それを活字にできるのはすごいと思う。

でもそれは完全なドキュメントじゃなくてエンターテイメントとしても読める小説にしてしまうから尚更すごい。


今作は表題より宮本武蔵や吉岡直綱、千葉周作など剣豪もの五編の短編を収録しています。

個人的には「京の剣客」と「越後の刀」がおもしろかったかと。


剣豪ものとか時代ものは同じ人物や事件でも違う著者の作品だと全く別な角度から読むことができるのがおもしろい。

読み比べができるのがステキなところなんだと思います。

まだもうちょっと剣豪もの読みたいなぁ


司馬 遼太郎
真説宮本武蔵

『狐罠』(北森鴻 講談社文庫)

読了。


北森鴻はおもしろい。

店舗をもたない骨董商「旗師」。その旗師・宇佐見陶子が橘薫堂に贋作をつかまされる。

自身のプライドにかけて橘薫堂に「目利き殺し」を仕掛ける陶子だが意外なところで殺人事件にまきこまれていく話。


「狐」シリーズの一作目。宇佐見陶子は「蓮丈那智」シリーズにも出てくるので早く読んでみたかった。

全体としておもしろかったけどこれは話の流れを楽しむ作品じゃなくて贋作が完成していく過程を楽しむ作品のように思える。

逆に言えば、話の展開はちょっとおざなり。最後の数ページでどんでん返し、とまではいかないがなし崩し的に話を収めるしまった感じがちょっと残念。

でもそれを補って余るほどに贋作や陶器などの古美術描写は美しかった。

この力が同じぐらい話の展開にもあったらよかった、とも思うけどこれはこれで丁度いいのかも。


シリーズ続編「狐闇」の方も早く読んでみたい。


関係ないけど表紙は文庫版よりもノベル版のほうがいいね。


北森 鴻
狐罠

『合意情死』(岩井志麻子 角川ホラー文庫)

読了。


岩井志麻子の「岡山もの」。

おもしろかったけどそれ以上でも以下でもないのがちょっと残念でした。エロスとタナトスが全然足りていないように思ったのは気のせいですか?


岩井 志麻子
合意情死(がふいしんぢゆう)

『呼人』(野沢尚 講談社文庫)

読了。


これも近所のブックオフで買いました。


野沢尚は結構好きです、と言っても講談社文庫から出ているのしか読んだことがないのでなんとも言えませんがそれでも好きです。

ただ今作は今までのとはちょっと作風が変わっていて驚きました。ああ、この人こんなのも書けたのね、みたいな感じで。

『破線のマリス』や『リミット』は多少なりとも現代への問題定義がそこにありました。

でも『呼人』はそういったものを前面に出していません。テロや原発など諸々を問題定義とみれなくもないですがそれらは今回は物語の装飾にすぎないです。そういうのは村上龍にでも任せておけばいいんです。


この物語の主人公「呼人」は12歳で老いることがなくなった不老の人です。

故に呼人は苦悩します。一時は結構荒れたりもしていました。

でもイロイロあって立ち直ります。そして次に呼人は母親探しの旅に出ます。

呼人を不老の体にした母親に会い、自分の存在意義を問うために母親を探します。

そういう話です。


「命は限りがあるから美しい」と誰かが言ったり言わなかったりしますがそれはきっとウソです。

限りがあってもその中身は結局のところ本人次第です。

呼人は物語の途中でこんな感じのことを言います。

「どんな人にでも生まれた意味はある。それを見つけるために頑張った人が頑張っただけ生きることができる」と。

つまるところこれがこの物語の集約なんだと思います。


呼人は不老ではあるけど不死ではありません。

老衰で死ぬことはないけれども、ビルから飛び降りたら死んでしまいます。

ただ少なくても普通の人よりも呼人に与えられた人生は長いです。とてもとても長いです。

物語は呼人の最期までは語られていません。

呼人はこの先も友人や親しい人たちの死を追い抜きながら自分の存在意義を探し頑張り続けるのだと思います。

そんな呼人にいつか安らかなる人生が訪れるますように。


これを読むとやはり野沢尚が自らの手で人生に幕引きしてしまったことが残念でなりません。

今更ですがご冥福を祈ります。


野沢 尚
呼人

『柳田國男全集 4』(柳田國男 ちくま文庫)

読了。


民俗学の開祖、柳田國男の全集です。まんまです。


近所ののブックオフで半額だったので思わず買ってしまいました。

「遠野物語」「山の人生」「史料としての伝説」などを収録してあります。

初期の柳田民俗学で重要なポジションをしめている山人・木地屋・サンカなどの話が多く納められてます。

でもやっぱり「遠野物語」は何度読んでもおもしろいです。


できることならちくま文庫版の復刊を心より願います。

『黒焦げ美人』(岩井志麻子 文春文庫)

読了。


久しぶりに読む岩井志麻子はやっぱり岩井志麻子だった。


大正元年に実際に岡山で起こった猟奇殺人事件。実話を元に作られた話らしいが岩井志麻子の話にしてはパンチがいまいち効いていなかったような気がする。パンチってなんだよ、とか言われそうだけど例えばエロスとかグロとかエロスとかが足りていない。

読み終わった後の感想は「おもしろかった」なのだがなんだか煮え切らない感じが少し胸に残る。

余韻とかそういうのじゃなくて単に消化不良の胸焼けみたいな感じで。


ミステリにもホラーにもなりきれずかといって幻想小説かと言えばそうでもなく、ちょっと中途半端な感じが少し残念。いや、でもおもしろかったんだけど。

特に最後の手紙のシーン、人の業を綴っているところは非常によかったと思います。


でも本当にこの人は「岡山」が好きで好きでしょうがないのね、っていうのはよくわかりました。毎度のことですが。


岩井 志麻子
黒焦げ美人

『触身仏』(北森鴻 新潮文庫)

読了。


一番初めに紹介するのが北森鴻なのはちょっと幸せだ。


「蓮丈那智フィールドファイル」シリーズの二作目。先日、前作の『凶笑面』がドラマになっていたけど微妙な内容だったのがちょっと残念。後々これもドラマ化するのでしょうか、もし放送されるなら期待しないで待っていましょう。

民俗学を主題においた短編集としては良作ぞろい、だと思いたい。

だが前作よりかは幾分かパワーダウンしたように感じるのはこっちが慣れたからでしょうか?もしくは今回は出先での事件よりも大学内での事件が多かったからそう感じるのかもしれない。

個人的には表題作「触身仏」と「御蔭講」あたりが結構よかったんじゃないかと思います。

毎回のコトながら民俗学をミステリに応用させている出来はすばらしいと思う。解説にもあるように量産はできないかとは思うが早く次のが読みたくなってしまう。

次の「写楽・考」も早く文庫化されないかしら。


ただ相変わらずフィールドワークに出るたびに人が死ぬのは誰の頭上に死兆星が輝いているからなんでしょうかねぇ


北森 鴻
触身仏